IMFとOECDのデータ検証:日本のGDPとドル換算値

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IMFで公開しているGDPのデータが、国内データやOECDのデータと整合性が取れているのか検証してみます。

1. IMFとは

前回までは個人事業主の国際比較についてご紹介しました。

日本は長期間労働者数が横ばい傾向ですが、個人事業主が減少し、雇用者が増えているという内訳の変化が進んでいます。

労働者全体に占める個人事業主の割合は、1997年には30%程度でしたが、2022年には11%と大きく減少しています。

今回から、OECD以外の国との国際比較をご紹介していきたいと思います。

参照するのは国際通貨基金(IMF: International Monetary Fund)の統計データです。

IMFのホームページによれば、同基金の活動内容は次のように説明されています。

国際通貨基金(IMF)は、生産性や雇用創出、健全な経済に必要不可欠となる金融の安定と国際通貨協力を促す経済政策を支援することで、全ての加盟国190か国が持続的な成長と繁栄を実現するための取り組みを行っています。 IMFは、加盟国によって運営され、加盟国政府に対して責任を負っています。

IMFは3つの重要な任務があります。国際通貨協力の強化、貿易の拡大・経済成長の促進、繁栄を損なう政策の抑制、の3つです。任務を達成するため、IMF加盟国は互いに、また他の国際機関と協力して働いています。

国際通貨基金 IMFとは?より抜粋・編集

IMFでは様々な統計データを公開していますが、その中の「World Economic Outlook Database」では、約190の国と地域について、GDPや人口、購買力平価、政府収入・支出などについてのデータが公開されています。

本ブログで普段参照しているOECDは主に欧米を中心とした先進国で構成されていますが、経済水準が高くてもOECD非加盟のシンガポールやカタールなどは含まれません。

IMFのデータであれば、これらの国を含めてより現実的な日本の立ち位置がわかるかもしれませんね。

2. 日本のGDP

まず今回は、IMFで公表されているデータが、日本国内やOECDの統計データと合致するかを確認してみたいと思います。

ちょうど2024年7月からOECDの統計サイトが刷新されましたので、OECDデータの検証も兼ね、最新の2023年のデータを見てみたいと思います。

まず、日本のGDPについて名目値と実質値の推移を確認してみましょう。

図1 GDP 日本
OECD統計データ、IMFデータベース、国民経済計算より

図1が日本のGDPについて、各統計データの名目値と実質値の推移を重ねたグラフです。

名目値については、OECDのデータが緑、IMFが青、内閣府の国民経済計算が黒の実線です。

実質値については、OECDのデータが橙、IMFが赤、内閣府の国民経済計算が黒の破線です。

実質化の基準年はどの統計データも2015年で、この年で名目値と実質値は一致します。

3つの統計データは、名目値でも実質値でも一致している事がわかりますね。

もちろん国際機関の公表しているデータは、日本の国民経済計算を参照していると考えられますので、当然の結果ではあります。

日本の名目GDPは1997年をピークにして長期間停滞が続いてきましたが、2010年以降は上昇傾向が続いていて、2023年は大きく増加して592兆円に達しています。

実質GDPは緩やかな増加傾向が続いていて、2023年は559兆円です。

ただし、2022年以降は物価上昇が大きく、名目成長よりも実質成長の方が低い状況となっています。

3. 日本の1人あたりGDP 名目値

続いて、日本の1人あたりGDPについて、ドル換算した数値をOECDとIMFのデータで比較してみましょう。

名目のドル換算値は、為替レート換算値と購買力平価換算値の2通りが公開されています。

図2 1人あたりGDP 名目値 日本
OECD統計データ、IMFデータベース、国民経済計算より

図2が日本の1人あたりGDP 名目値について、OECDとIMFのデータによるドル換算値です。

OECDによる購買力平価換算値が緑、IMFによる購買力平価換算値が青です。

OECDによる為替レート換算値が橙、IMFによる為替レート換算値が赤です。

為替レート換算値は両方ともぴったりと一致して推移しています。

1995年にピークの44,210ドルとなり、その後はアップダウンしながら横ばい傾向で、2022年、2023年は円安を受けた大きく減少していますね。

2023年は自国通貨だと上昇していますが、円安がさらに進んだ事で為替レート換算値だとやや減少しています。

購買力平価換算値は右肩上がりで上昇しています。

OECDとIMFのデータはほぼ一致しますが、2021年以降でやや乖離があるようです。

購買力平価の差異があるのかもしれませんね。

2023年での数値はIMFで52,215ドル、OECDで50,273ドルとなり差は4%弱です。

購買力平価換算値は、物価をアメリカ並みに揃えたとした場合の数量的な水準を比較する数値となります。
名目の購買力平価換算値は、アメリカの名目値に対する「空間的な実質値」を推計したものとなります。

念のため、それぞれの数値の表記をご紹介しておきます。

OECDのデータ
名目・為替レート換算値 Current prices, exchange rate converted
名目・購買力平価換算値 Current prices, PPP converted

IMFのデータ
名目・為替レート換算値 Current prices, derived by converting GDP in national currency to U.S. dollars
名目・購買力平価換算値 Current prices, derived by dividing GDP in PPP dollars

Current pricesが名目値である事を表しています。

4. 日本の1人あたりGDP 実質値

続いて、日本の1人あたりGDPについての実質値です。

図3 1人あたりGDP 実質値 日本
OECD統計データ、IMFデータベース、国民経済計算より

図3が日本の1人あたりGDP実質値のドル換算値です。

OECDによる購買力平価換算値が緑、IMFによる購買力平価換算値が青です。

OECDによる為替レート換算値が橙で、IMFによる為替レート換算値は見当たりませんでした。

一般に日本語で実質値というと時系列的な実質値を指します。

実質のドル換算値とする場合は、自国通貨ベースの実質GDPを、基準年における換算レートで全ての期間を換算して計算する点に注意が必要です。

日本語で表現するとややこしいのですが、自分で計算してみると良くわかりますので、是非皆さんもトライしてみていただければと思います。

以前このような計算がされている事を理解していないのか、実質のドル換算値を各年の為替レートで自国通貨建ての円換算して整合性の取れないデータを公表していた報道機関があったようです。

各機関の実質値の呼び方を見ると、実質値のドル換算値とは何かが良く理解できます。

OECDのデータ
実質・為替レート換算値 Chain linked volume, exchange rate converted
実質・購買力平価換算値 Chain linked volume, PPP converted

IMFのデータ
実質・購買力平価換算値 Constant prices, derived by dividing constant price purchasing-power parity (2017 international dollar)

IMFではConstant pricesと表記されている部分が実質値であることを示しています。

Constant pricesとは、基準年の物価で置き換える事で固定した物価で計算した数値=時系列的な実質値という意味になりそうです。

また、IMFの場合は2017年の固定した購買力平価でドル換算された数値であることがわかります。
実質化は2015年ですが、ドル換算は2017年の換算レートという事になります。

OECDでは、Chain linked volume=連鎖方式による実質値という表記となっています。Volume=量という意味なので、数量的な実質値を表すわけですね。

2024年のデータベースサイトの刷新前(OECS.Stat)では、Constant prices, constant PPPs, OECD based yearのような表記となっていました。

Constant pricesで実質値である事を、constant PPPs, OECD based yearでOECDの基準年(例えば2015年)での固定の購買力平価による換算である事を明記されていました。

OECDとIMFの数値にやや乖離があるのは、この購買力平価の基準年の違いによるものと推定されます。

実際にIMFのデータをOECDの2015年の購買力平価で補正してみると、ほぼOECDのデータに一致する事が確認できます。

OECDの実質の為替レート換算値も同様に、時間的な実質値に対して、基準年(ここでは2015年)の固定した為替レートでドル換算している事になります。

つまり、OECDの実質 購買力平価換算値と、実質 為替レート換算値は相似形で、基準年における購買力平価と為替レートの比率分だけ異なる推移となっている事になります。

実質の購買力平価換算値は、時間的な実質値でもあり、アメリカを基準とした空間的な実質値でもある事になります。

個人的には数値の比較をするのであれば、名目のドル換算値の方がシンプルでわかりやすいように思います。

5. IMFのデータの特徴

今回は、IMFのデータベースから、日本のGDPや1人あたりGDP(ドル換算値)について検証してみました。

自国通貨ベースの数値はOECDのデータと完全に一致している事が確認できました。

また、名目のドル換算値では、為替レート換算も購買力平価換算もよく一致していますが、購買力平価換算値で若干の差異があるようです。

購買力平価の計算結果で、OECDと差がある事が考えられそうです。

実質のドル換算値では、IMFは購買力平価換算値しかありませんが、上述の購買力平価の差異に加え、購買力平価の換算年(2015年と2017年)の違いも影響していそうです。

いずれにしても、IMFのデータはOECDのデータと良く合致していて、国際比較をする際にも特に今までご紹介したデータと違和感なく活用できる見通しが得られたと思います。

今回は少々マニアックな内容でしたが、異なる国際機関が公表しているデータでも、よく一致している事が確認でき私としては大変意義のある比較となりました。

次回以降はこの数値を用いて、OECD以外の国々とも国際比較をしていきたいと思います。

皆さんはどのように考えますか?


編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2024年10月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。