オーストリアのヴォルフガング・ソボトカ国会議長は10日、国民の反ユダヤ主義の状況について実施した「スナップショット」調査結果を発表した。国会は2018年以来、2年毎に国内の反ユダヤ主義の状況を調査してきたが、中東情勢の過熱を受け、今回は若者に焦点を当てて実施された。調査ははIFESとDemox Researchが委託されて、521人を対象に6月17日から同月28日にかけてコンピューターを用いた電話&ウェブインタビューが行われた。
その結果、16歳から27歳の若者のおよそ60%が、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム過激テロ組織「ハマス」のイスラエルへの奇襲テロ事件について、「忌まわしいテロ行為」と受け取っている一方、ハマスの奇襲テロへのイスラエルの報復攻撃を「自衛権の行使」として正当化しているのは3分の1に過ぎなかった。
ハマスの奇襲テロ事件後、イスラエル軍のガザでの報復攻撃、そして他の中東地域への戦闘拡大が懸念され出したが、56%の回答者が中東紛争の拡大に最も懸念しており、ハマスによるイスラエルの人質に対する懸念(51%)と、パレスチナの民間人に対する懸念(50%)はほぼ同程度だった。
16歳から27歳の若者はガザ区のパレスチナ人の安全への懸念がイスラエルの民間人に対する懸念(41%)や、戦争によって世界中のユダヤ人の安全が脅かされる可能性についての懸念(37%)より高かった。パレスチナ民間人の苦しみに関しては、33%がイスラエル、36%がハマスに責任があると受け取っている。また、43%の回答者が「イスラエル人は基本的にパレスチナ人を、第二次世界大戦中にドイツ人がユダヤ人を扱ったのと同じように扱っている」という意見に賛同していることが明らかになった。
2022年の調査結果と比較すると、「第二次世界大戦中のユダヤ人迫害を理由にオーストリアが特別な責任を持ってユダヤ人を支援すべきだ」と考える人の割合は49%から42%に減少している一方、「ユダヤ人が政治や国際メディアに特別な影響力を持っている」という反ユダヤ主義的な言説への賛同は20%から28%に増加している。
調査を実施した関係者は「特に学校で反ユダヤ主義に対する教育を強化する必要がある」と指摘している。全体的に見て、教育レベルが低い人、ウィーン出身の人、そして男性が反ユダヤ主義の影響を受けやすいという。また、「伝統的なメディアを消費する人々は、ソーシャルメディアで情報を得る人々に比べて、反ユダヤ主義的な傾向がはるかに少ない」と述べ、「特に、TikTokが若者を反ユダヤ主義に誘導する兆候が見られる」と指摘している。
ところで、オーストリアの歴史学者ジェラルド・ランプレヒト氏はオーストリア通信(APA)とのインタビューで、「ハマスの奇襲テロ事件後、オーストリアで反ユダヤ主義的言動が事件の件数や深刻さの両方で増加している」という。
2023年10月7日まで、オーストリアで報告された反ユダヤ主義の事例は1日平均1.55件だったが、その後は1日平均8.31件に急増した。2023年全体では1147件の反ユダヤ主義事例が報告されており、その内容は罵倒や建物への落書き、ユダヤ人墓地の礼拝堂への放火未遂など多岐にわたる。
看過できない点は、反ユダヤ主義傾向が拡大する一方でイスラム教徒への人種差別も増加していることだ。ハマスの奇襲テロ事件後、中東問題ではオーストリア社会が2分化し、イスラエルを支援するか、パレスチナ側を支援するかで強制的に分かれてきている。ただし、イスラエルのネタニヤフ政権の軍事政策に対して批判の声が高まっているが、それが即反ユダヤ主義とはいえないが、ランプレヒト氏は「多くの場合、イスラエル政府への批判が反ユダヤ主義に繋がっていく」と指摘。具体的には、イスラエル国家の正当性を否定したり、イスラエルを悪魔化する場合だ。
欧米では大学が反ユダヤ主義の拠点となり、激しいデモや暴動が起きているが、「オーストリアの大学では、アメリカやドイツの大学でのような反ユダヤ主義的抗議デモ、暴動はまだ見られない」(ランプレヒト氏)という。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年10月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。