関西での公明・維新激突で勝っても維新に得はない

自公連立で、参議院比例区での得票数などをみると、自民党が35%程度で公明党が12%ほどだから、小選挙区では、公明党候補が300小選挙区で70選挙区ほどの候補を擁立できるはずだし、閣僚数も4~5獲得できるはずだ。

維新・馬場伸幸(同氏X)代表×公明・石井啓一代表(公明党HP)

しかし、衆議院小選挙区では11の選挙区でだけ公明党候補を自民党が応援しているだけだし、閣僚も国土交通大臣ひとつだけだ。

見返りで比例区で自民党から少し票を流しているが、大したことはなく、公明党が自民党に流している票も5~10分の1だといわれる。

一方、維新も関西の公明現職の6選挙区では対抗馬を立ててこなかった。大阪府市など維新が握っている自治体の議会運営のために公明の協力が不可欠だったからだ。ところが、前回の統一地方選挙で大阪府に続いて大阪市議会でも維新が過半数を獲得したので、今回は対抗馬を出している。

  • 大阪3区(大阪市南部)公明党:佐藤茂樹vs.維新:東徹
  • 阪5区(大阪市北部)公明党:國重徹vs.維新:梅村聡
  • 大阪6区(大阪市北東部・守口市など)公明党:伊佐進一vs.維新:西田薫
  • 大阪16区(堺市)公明党:山本香苗vs.維新:黒田征樹
  • 兵庫2区(神戸市西部)公明党:赤羽一嘉vs.維新:和田有一朗
  • 兵庫8区(尼崎市)公明党:中野洋昌vs.徳安淳子

この擁立については、維新のなかでも異論があったといわれる。たしかに、現在は大阪府市の議会で維新が過半数を獲得しているが、次の統一地方選挙でもそうとは限らない。ここで全面対決になれば、これまでのように公明党に是々非々の立場を期待できなくなる。

また、大阪都構想で、公明党は消極的ながらも住民投票の実施に賛成し、投票でも賛成を呼びかけたが、出口調査では公明党支持者の賛否は半々だったといわれる。

そこで維新は協力が不十分だったというのだが、投票の実施に同意したことも含めれば、十分な協力だった。都構想が否決された原因は、いったん否決された案をひっくり返すには、提案に工夫が足りなかったことに尽きる。

私はどちらかといえば都構想に賛成だが、今回の公明党との亀裂で見通しは暗くなったのが残念だ。

また、維新が本当に国政において野党第一党になり、自公政権の対抗勢力になれば、民主党政権の悪い部分だけを引き継いだ立憲民主党が野党第一党であることの閉塞感を打ち破ると期待している。

実際、関西以外をみると、将来有望な新人が多く維新に結集している。そういう人たちの期待に少しでも答えるのが本筋なのに、そちらのほうは、いっこうに迫力がない。

また、もし、与野党拮抗状態になって政権をとったとしたとき、自公連合はそう簡単に崩せないだろうが、公明党に是々非々であってもらえないと、共産党という存在がある以上、政権運営は難しいと思う。

さらに、関西人としての立場からすれば、維新と公明という関西に強い政党がふたつあることは、たいへん心強い。公明党は「常勝関西」というように、まだ公明党が創立される前の1956年の参議院選挙で、創価学会が表に出て白木義一郎氏を当選させて以来、強力な地盤としてきたことから、関西に対して格別の配慮をしてきた政党である。

それが大きく勢力を減退させることになれば、関西という地域の政治的発言力の低下につながりかねない。

そもそも、関西万博成功のために、オール関西で協力しなければならないときに、大阪府市を支配する維新が、さらに関西での権力の独占を試みるのは、万博の成功のためにもよいことでない。関西万博の成功が維新の成功の道具になるとすれば嫌な人は多いし、逆に一緒に踊ることも嫌になってしまう。

はっきりいって関西万博の不評のかなりは、維新に点数を稼がしたくない感情に起因していると思う。

本当は、関西を重要な基盤とする公明党や創価学会と万博の成功に向けて協力することは維新にとっても非常に重要だったのにと思う。

この六つの選挙区の帰趨は、万博の不評にかかわらず、裏金問題もあって維新に有利に展開していたが、維新が推していた兵庫県知事のスキャンダルで維新の人気は急落して予断をゆるさないようになっている。

いうまでもなく、公明党の6候補は、同党のなかでもエースクラスである。とくに大阪については、佐藤茂樹は副代表であるし、伊佐進一は東京大学工学部卒で文部科学官僚から政界入りし、文部科学省や厚生労働省の分野での政策通であり、国重徹は憲法や皇位継承問題など難しい立法についての調整もこなせるキーマンとして北側副代表を支えてきた。山本香苗は外交官として私の友人の部下だったがまことに有能だったと聞く。

佐藤茂樹氏・伊佐進一氏・山本香苗氏 公明党HPより

こうした若手のホープを失わないことは、自公政権にとっても格別に重要だし、維新にとっては、少なくとも全勝にこだわるというのは、かえって悔いを残すことになりかねないような気がする。