渋沢榮一にねぎ、レンガ、そして酒蔵:意外に盛りだくさんな埼玉・深谷を歩く

新1万円札フィーバーに沸く深谷

下を向いても栄ちゃん。

上を向いても栄ちゃん。

9月27日 まだ残暑の厳しい初秋の土曜に埼玉県・深谷市を訪ねました。

深谷市は7月3日発行の新1万円紙幣の顔に選ばれた実業家・渋沢榮一氏が生まれた場所ということで今、まさに渋沢フィーバー。非常に盛り上がっています。今回はそんな今とても熱い町、深谷を訪ね歩きます。

品川から上野・東京ラインに揺られて1時間40分。深谷駅で下車します。

深谷駅は東京駅を模したレンガ「風」のデザインが特徴的です。近寄って見るとレンガではなくレンガ模様のタイル。建築基準法の関係で煉瓦でつくることができずタイルでの施工となったそうです。

このあといくつか登場しますが深谷はレンガ造りの建物が多く見られます。深谷はもともと深谷瓦の産出地でしたが、明治期にレンガの需要が高まるとその技術を活用してレンガ造りが盛んになっていきました。東京駅や迎賓館の基礎部分には深谷産のレンガが使われています。こうした縁で深谷駅もレンガ「風」の駅舎になっているのです。

駅舎内の柱は深谷名産・深谷ねぎの束模様!深谷はねぎの作付け面積全国一。名実ともにねぎの町です。

それでは深谷駅前からコミュニティバスに乗り、渋沢栄一が生まれたエリアに向かうことにします。コミュニティバスはレンガ模様にかわいらしいキャラが描かれています。

コミュニティバスのデザインのもとは深谷のゆるキャラで全国的にも知名度が高い「ふっかちゃん」です。角のように見える深谷ねぎにチューリップのアップリケが特徴。深谷はチューリップの栽培が盛んな地でもあります。

渋沢榮一の生きた町・血洗島を歩く。

妹夫婦の家とはいえ立派な邸宅です。

バスに乗って30分、渋沢榮一の生地、「中の家(なかんち)」に到着しました。渋沢が生まれた深谷市血洗島(ちあらいじま)地区の中心にあるのでこの名がつきました。血洗島とはずいぶん物々しい地名。利根川に洗われる土地を意味する「地洗島」が転訛したとも、アイヌ語の「下の端の地」を意味する「ケセン」に「血洗」の字があてられたともいいますが、諸説あって真実は不明です。

渋沢はここで23歳まで暮らします。彼が住んでいた当時は茅葺屋根の家でしたが、妹夫婦が住み始めた際に現在の建物に建て替えられました。

尾高惇忠邸にて撮影。

渋沢家は血洗島の一農家でしたがその暮らしぶりは大変裕福でした。その秘密はこの藍玉。利根川の扇状地で砂地の血洗島は稲作には不向きだった一方で水はけのいい地で育つ藍の栽培にはうってつけの土地でした。渋沢家はここで藍を栽培し藍玉を作っていましたが原料を農家から買い、紺屋に藍玉を販売するところまで請け負う商売も行っていました。

また、地域の藍農家を競わせるために番付を作り公表、切磋琢磨して良質の藍を作らせていました。渋沢榮一の商才の原点は家業にあったといっても過言ではありません。

向こうに広がる青々としたねぎ畑。

血洗島地区一帯は藍の栽培が盛んでしたが、同様に砂地で栽培するのが適しているのがねぎです。藍栽培は化学染料の台頭で衰退していきましたが、ねぎはその空いた土地を生めるように作付け面積を伸ばし特産品にまで成長していきました。

中の家から渋沢栄一記念館までの間はのどかな散歩道になっていますが、そこには渋沢榮一のありがたい言葉が並びます。彼の説く「道徳経済合一説」を散歩をしながら学ぶことができる遊歩道です。

記念館裏にある渋沢榮一像。
ちょっと頭が大きくないかい…?

渋沢も愛した煮ぼうとう

場所は中の家に戻りますが、昼食はこちらの麵屋忠兵衛で頂きました。ここは深谷名物「煮ぼうとう」が食べられる老舗です。

看板猫が迎えてくれました。

単なる麵屋と侮ってはいけません。歴史のありそうな店構えから想像できるようにここは渋沢家ゆかりの建物。大番頭の家屋だったこともあり、渋沢榮一直筆の掛け軸が床の間に飾られています。

これはうまい!ファンになりそうな煮ぼうとう。

こちらが名物・煮ぼうとう。ほうとうというともっぱら山梨県の特産というイメージが強いですが、深谷を含めた埼玉県北部でもよく食べられています。山梨のほうとうは味噌ベースが主流ですが、埼玉では醤油で味付けます。当然中には深谷ねぎも入っていて、地元の野菜もおいしく頂ける一品です。

さて、ここまでは渋沢榮一とねぎの話ばかりしてきましたが、ここからはそれ以外の深谷を紹介していきたいと思います。

七ツ梅酒造跡

バスの時間が合わなかったので、タクシーで深谷駅に戻る途中に寄ったのが旧七ツ梅酒造跡。江戸時代から300年続いた酒蔵でしたが今は廃業、ここは空き家になっています。ところが中に足を踏み入れるとー

!!!

なんともシュールな物体が目に飛び込んできました。netflixの「忍びの家」でここがロケ地になった際に使われたセットが残されているそうです。びっくりした。。。

ここ、七ツ梅酒造跡は酒蔵跡を利用した昭和風の商店街になっていて地元の方の人気の観光スポットになっています。

台湾点心「台湾荘」。

雑貨やドリンクを販売する「からんころん洞」。

深谷の象徴、レンガ造りの蔵がここに。

造り酒屋のであったことを物語るレンガ煙突が残ります。

蔵や煙突を眺め酒蔵であったことを偲びつつ昭和レトロな町並みを歩きます。かなり作りこまれていて昭和中期の世界にタイムスリップしたかのよう。この時代にはまだ生まれていませんでしたがどこか懐かしい気持ちにさせてくれました。

深谷駅から徒歩圏内で見ることができるレンガ煙突です。

深谷駅に戻る途中、もうひとつレンガ煙突を見かけました。こちらは酒蔵藤橋藤三郎商店さんのレンガ煙突。東白菊(あずましらぎく)という銘柄で現在も醸造を続けています。レンガ煙突は今はもう使われていませんが埼玉県の景観重要建造物として遺されています。

歩き終わったあとにはすっかり日も落ちてしまっていました。渋沢榮一とねぎ以外何があるのか、と正直疑問に思っていたところがあるのですがとても見どころの多い町でした。

バスなどが公共交通機関が少ないのが難ですが、車ならより効率的に回れるかもしれません。新一万円札発行で今が旬な深谷。渋沢以外の魅力も感じながら訪ね歩いて見てください。


編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2024年10月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。