モルドバで20日、大統領選(任期4年)の投開票が行われ、選挙委員会によると、現職の親欧州統合派のマイア・サンドゥ大統領(52)が得票率41%(暫定)で第1位となったが、第一回投票で当選に必要な過半数からは遠く、2週間後に第2位の候補者、得票率約26%を獲得した親ロシア派のアレクサンドル・ストヤノグロ氏との間で決選投票(11月3日)が実施されることになった。大統領選と同時に行われた欧州連合(EU)の加盟の是非を問う国民投票は賛成票と反対票が拮抗している。最終結果は在外投票の集計後になる予定。
サンドゥ氏は2020年以来、旧ソ連共和国のモルドバの大統領を務めている。ロシアのプーチン大統領がウクライナに軍を侵攻させた直後、ロシアから距離を置き、EUへの統合推進を掲げて2022年6月に加盟申請した。EUのフォンデアライエン委員長は当時、「モルドバは独立国家になって以来、腐敗、汚職対策など改革を果敢に推進し、欧州統合に歩みだしている」と高く評価していた(モルドバは2016年、EUとの間で自由貿易協定を締結済み)。ブリュッセルとキシナウ(モルドバの首都)との間で加盟交渉が今年6月から進行中だ。
大統領選では11人が立候補者したが、実際はEU加盟を掲げるサンドゥ大統領と親ロシア派の社会党(PSDR)が支持する元検事総長のストヤノグロ氏の間で戦われた。ストヤノグロ氏は選挙戦では「東(ロシア)でも西(欧米)でもないバランスの取れた外交政策」を主張してきた。同氏はサンドゥ氏によって検事総長を解任されている。なお、サンドゥ大統領は「モルドバの国民が運命を自ら決定すべきであり、嘘や買収で選挙を操作すべきではない」と、親ロシア派の不正投票を批判している。投票率は約51.6%だった。
一方、EU加盟を支持する憲法改正のための国民投票は予想外に多くの国民が反対票を投じた。国民投票の文面では、「EU統合をモルドバの戦略的目標として宣言する」という文言が憲法に加わる予定だった。現地の情報によると、反対票が50.5%と賛成票を僅差で上回っている。
国民の間では、大統領選とEU加盟国民投票を同時に実施することに反対の声が強かった。反対派は「EUとの交渉は続行すべきだが、加盟交渉が完了した段階で国民投票を実施すべきだ」と主張している。親ロシア派の一部の政治家はEU加盟を問う国民投票をボイコットした。
ロシア軍がウクライナに侵攻して以来、モルドバには多くのウクライナ国民が避難してきた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、「欧州の最貧国」と呼ばれ、人口約264万人の小国モルドバに50万人余りのウクライナ人が避難してきた。
モルドバの欧州統合プロセスは急テンポだが、ウクライナのようには北大西洋条約機構(NATO)の加盟は願っていない。国内にロシア系少数民族が住んでいることから、プーチン大統領を刺激したくないという政治的判断が働いているものと推測されている。
2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以来、モルドバの多くの人々は、「次にロシアはわが国を攻撃するのではないか」という懸念を抱いている。ソ連崩壊後にモルドバから分離したロシア語圏のトランスニストリア地方の情勢に多くの国民は不安を感じている。
ちなみに、ウクライナ南部に接するモルドバ東部のトランス二ストリア地方はモルドバ全体の約12%を占める領土を有する。モルドバ人(ルーマニア人)、ロシア系、そしてウクライナ系住民の3民族が住んでいる。同地域にはまた、1200人から1500人のロシア兵士が駐在し、1万人から1万5000人のロシア系民兵が駐留。ロシア系分離主義者は自称「沿ドニエストル共和国」を宣言し、首都をティラスポリに設置し、独自の政治、経済体制を敷いている。状況はウクライナ東部に酷似しているわけだ。
サンドゥ大統領を批判する国民は「西側の利益を優先する一方、厳しい経済状況や高インフレの改善に取り組んでいない」と指摘、サンドゥ氏がロシアのガス供給を拒否したため、エネルギー価格が高騰し、多くの消費者が不満を抱いているという。
モルドバでは、来年夏の議会選挙に向けて親欧州派と親ロシア派の政治権力争いがさらに激化することが予想される。欧米諸国はモルドバを第2のウクライナにしないために支援を惜しんではならない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年10月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。