リタイア後のよくある失敗と対策

黒坂岳央です。

定年退職と早期退職、昨今仕事をやめるということに憧れを持っている人が多いように思う。だが、仕事をやめるという選択肢は基本的に一本道で、少なくとも元々やっていたホワイトカラー職に戻ることはかなり難しくなる。そのため、退職後に気持ちが変わって仕事をするにも職業変更を余儀なくされる事が多い。また、思わぬ失敗は仕事だけではない。

筆者は現在、サラリーマンを30半ばで退職してから、感覚としてはすでにアーリーリタイアとあまり変わらない。今やっている仕事は趣味とその位置づけはまったく同じだ。自分の経験と、知人のリタイヤ組の意見を交えてよくある失敗と対策について論じたい。

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失敗1. ヒマ

最大の過ちがこれだ。ズバリ、ヒマを持て余してしまうことである。

よく誤解されていることの一つに「自由とヒマ」がある。自由は束縛が一切ない状態であり、仕事や趣味、旅行など自分がやりたいことに時間を使える理想の状態である。その一方で、ヒマというのは自由と似ているが「やりたいことがない状態」という意味で、両者は「天国と地獄」ほどの差がある。

実際に過去に経験があるのでわかるが、自分にとっては平日が毎日終電帰りのサラリーマンの時より、退職してヒマを持て余していた時期の方が精神的にははるかに辛かった。

定年退職後、ヒマになってしまうとまさに生き地獄になる。自分が知っている話は夫が退職して家にいるのを苦痛に感じた妻から「日中は家から出てほしい」と言われて、山手線を座ってひたすらぐるぐる回って時間を潰したり、午前中から図書館にいって居眠りをする日々を何年も送っている。このような生活はどんな激務より辛い。

対策としては、ヒマという大きなリスクヘッジを事前にしておく。すなわち、「仕事」を用意しておくことだ。定年退職の前から、それまでの仕事で培ったスキルを活用するなど、とにかく仕事を切らさない工夫をしておくことだ。

仕事というのは一度完全にやめてしまうと、なかなか復活することが難しくなる。油断すると何年もゴロゴロしてヒマに耐えながら肉体も精神も老化する地獄が待っている。なので、今の仕事が嫌でも何らかの仕事を用意しておくべきだ。

人生は何かを成すには短いが、何もしないにはあまりにも長過ぎる。

失敗2. 世間ズレ

退職して仕事をやめてしまうと、どんな人でも世間ズレする。これは思った以上に大きな問題だ。

定年退職だけでなく、資産運用などで成功してアーリーリタイアして何も仕事をしない人が社会とのつながりを失った結果、店員さんに横柄な態度を取るようになったり、口を開けば周囲を見下す発言をして周囲から人が離れていったという話はよく聞く。

また、テクノロジーや先端の情報は主に「仕事」という必要性に駆られて必死にキャッチアップしようと努力する性質がある。ところが仕事をやめてしまうと、この外圧がなくなってしまうので現役の頃の感覚のまま時が止まる、ということが起きる。

時々、お年寄りと話をするとまるで未だに昭和の高度経済成長期のような感覚のまま時が止まっているような人がいる。そこまでいかずとも、最新の情報がわからず、未だに強烈な円高、デフレ経済の感覚でおり、現在迎えている新たなインフレ経済に対応するための戦略を持っていないことは非常に多い。

世間ズレするとシンプルに時代の変化に取り残されて損をする。それだけでなく、世間ズレした人は周囲とうまくコミュニケーションが取れないので人が離れていく。世間ズレを防止するには、積極的に先端の情報を追い、新しいことに挑戦し続ける習慣が必要だ。そして一番いいのはなんといってもそれが求められる仕事を続けることだ。これ以上にいい薬はない。

失敗3. 健康

退職後は健康を害する人が非常に多い。害する、といっても積極的にジャンクフードを食べるという意味合いではなく、運動不足からくる衰えである。

筋肉は早くも20代後半から減り始める。何もしなければ使っていない筋肉がドンドン衰えていき、待っているのは寝たきり老人である。足元が衰えて転んで骨折すれば、そのまま寝たきりになってしまう。

そのため、30代以降は積極的に時間を作って運動習慣を持つことが極めて重要だ。すでに退職してしまった場合でも遅くはない。人間は何歳からでも鍛えれば筋肉が発達する。筆者が利用しているパーソナルトレーニングジムでは、70代のおじいさんが入会したそうだが持ち上げるダンベルの重量が毎月、確実に増しているとトレーナーがいっていた。今何歳でも関係ない。すぐにでも運動習慣を作ることが大事である。

また、運動は健康的な肉体を維持するだけでなく、脳機能やメンタルにも強く影響する。運動不足だと後ろ向きでネガティブな思考になってしまった人が、軽作業のバイトをした結果、前向きでポジティブになって引きこもりを脱したという話は珍しくない。頭も運動不足だとあまり動かないので、デスクワーカーも運動は重要だ。

リタイヤすると、サラリーマンの時のように仕事が降ってきて、通勤するという強制力が働かなくなる。そうなると、すべてに自己管理が必要になる。うまく管理できなければ、せっかく自由になっても辛い人生になり本末転倒となるので本稿を参考に対策をしていただければ幸いだ。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。