1. 1人あたりGDPとは
前回は、IMFのデータベースからGDPと人口の国際比較をしてみました。
特に数量的な経済規模の比較となる購買力平価換算のGDPで、人口の増えている新興国の存在感が高まっているようです。
今回から、より生活実感に近い経済水準の比較となる、人口1人あたりのGDP(1人あたりGDP)についてご紹介していきます。
1人あたりGDPとは、GDPを人口で割った指標です。
国民1人あたりの平均的な豊かさを表すとして最も頻繁に用いられる指標となります。英語ではGDP per capitaなどと表現されます。
1人あたりGDP = GDP ÷ 人口
1人あたりGDPは、GDPを総人口で割ります。
子供も高齢者も同じ1人としてカウントしますので、年齢構成によって計算される数値が影響を受ける点に注意が必要です。
日本は高齢化が進んでいるので人口1人あたりの指標だと不利になると考える人も多いようです。
日本は少子化も進んでいますので、全人口に占める生産年齢人口の割合は今のところそれほど他国と大きくは変わりません。
例えば、OECDの統計データによれば、20~64歳の生産年齢人口の比率は、日本55.0%、フランス55.3%、イギリス58.3%、アメリカ58.3%イタリア58.6%、ドイツ59.2%です。その差は1割に満たない水準であることがわかります。
労働生産性を評価する指標であれば、労働者1人あたりGDPや、労働時間あたりGDPが用いられます。
ILOによる労働生産性の国際比較については、後日ご紹介する予定です。
このような前提の下で、各国の数値を眺めていきましょう。
2. 1人あたりGDPの推移:為替レート換算値
今回は1人あたりGDPについて、主要国の推移と最新の国際比較をご紹介したいと思います。
まずは、主要国の為替レート換算値の推移を眺めてみましょう。
図1が主要国(G7+BRICs+韓国)の1人あたりGDPについて、為替レート換算値の推移です。
アメリカが右肩上がりで上昇していて近年では他の主要国と大きな差があります。
日本は1995年にかなり高い水準に達しますが、その後はアップダウンしながら横ばい傾向です。
2022年に円安が進んだ事もあり大きく減少して、2023年もやや減少しています。
2022年にはイタリアを下回りG7最下位となっていて、2023年には韓国に肉薄されています。
ドイツやイギリス、フランスなどの主要先進国も、為替レート換算値だとリーマンショックあたりから横ばい傾向となっています。
GDPでは存在感の増しているBRICs諸国も、1人あたりGDPだとまだ主要先進国の3分の1~4分の1程度の水準となっています。
3. 1人あたりGDPの国際比較:為替レート換算値
続いて、世界各国の1人あたりGDPについて国際比較してみましょう。
まずは日本経済のピークとなった1997年の比較です。
図2が1997年の1人あたりGDPについて、上位40か国の国際比較です。
ルクセンブルク、スイス、ノルウェーは当時からかなり高い水準に達していたようですが、4番目が日本となっています。
上位には、西欧諸国が多くを占めますが、OECD以外の国と地域ではアラブ首長国連邦(UAE)や、香港、シンガポール、カタール、台湾などが入ります。
1人あたりGDP 名目 為替レート換算値
1997年 単位:ドル
1位 44,203 ルクセンブルク
4位 35,651 日本
6位 31,440 アメリカ
11位 27,171 ドイツ
13位 26,773 イギリス
16位 25,028 フランス
23位 21,930 カナダ
24位 21,858 イタリア
36位 12,417 韓国
日本の1人あたりGDPは、自国通貨ベースでも1997年をピークにして1998年から停滞が続きますが、当時は為替レート換算で世界でもかなり高い水準に達していた事になります。
続いて、最新の2023年の国際比較をしてみましょう。
図3が2023年の1人あたりGDPの上位40か国です。
ルクセンブルク、スイス、ノルウェーが相変わらず高い水準ですが、アイルランドが2位、シンガポールが5位と大きく順位を上げています。
他にも、カタール、マカオなど西欧諸国以外にも上位に入っているのが印象的です。
アメリカは6位を維持しています。
ドイツ、フランス、イギリスは順位を落としていますが、日本は33,806ドルで特に大きく順位を下げています。
1人あたりGDP 名目 為替レート換算値
2023年 単位:ドル
1位 129,810 ルクセンブルク
6位 81,632 アメリカ
18位 53,538 カナダ
19位 52,727 ドイツ
23位 49,099 イギリス
25位 46,001 フランス
28位 38,326 イタリア
34位 33,806 日本
35位 33,192 韓国
韓国は1997年と比べれば3倍近くの数値になっていますが、順位は1つ上昇した程度です。
4. 1人あたりGDPの推移:購買力平価換算値
為替レートによるドル換算値は、市場為替レートの変動の影響を受けてアップダウンします。
時々の市場レートに応じた時価のような側面がありますが、国際比較しようとすると目まぐるしく数値が変化するため傾向を把握しにくいという特徴がありますね。
OECDやIMFでは、もう1つのドル換算の指標である購買力平価換算値も公表されています。
購買力平価でドル換算すると、物価水準をアメリカ並みに揃えた上での数量的な経済水準の比較を試みることになります。
購買力平価換算値は「空間的な実質値」とも呼ばれます。
早速、購買力平価換算値での推移や国際比較についても眺めてみましょう。
図4が主要国の1人あたりGDPについて購買力平価換算値の推移です。
為替レート換算値と比べると、滑らかな右肩上がりのグラフとなるのが特徴的です。
日本も自国通貨ベースや、為替レート換算値では横ばい傾向が続いてきましたが、購買力平価換算値だと右肩上がりです。
為替レート換算値だと高かった1990年代の水準が他国並みに均されています。
近年の上昇具合は他国と比べて緩やかで、他の主要先進国との差は開いています。
韓国には2018年に抜かれています。
アメリカ以外の他の主要先進国の水準も、為替レート換算値よりも割増しで評価され、アメリカとの差が縮小しているのも特徴的ですね。
また、ロシア、中国などの国々の水準も為替レート換算値と比べると大幅に高い水準となっています。
金額的にはかなり低いですが、数量的な経済水準としては相応の水準に高まっている事になります。
5. 1人あたりGDPの国際比較:購買力平価換算値
続いて、1人あたりGDPの購買力平価換算値について、上位国の国際比較をしてみましょう。
まずは1997年の国際比較です。
図5が1997年の1人あたりGDP(購買力平価換算値)の国際比較です。
上位国に中東諸国が並ぶのが印象的ですね。
ノルウェー、シンガポール、スイスなどが上位です。
為替レート換算値だと4位だった日本は、購買力平価換算値だと19位でそれほど高い順位ではなかったようです。
金額的(為替レート換算値)だとかなり高い水準でしたが、数量的(購買力平価換算値)だとそこまでではなかったという事になります。
当時の日本は国際的に見れば物価水準(購買力平価÷為替レートで表される物価比率)が高かった事になります。
1995年にはアメリカの1.85倍の物価水準に達していて、その後徐々に低下し、2023年には0.67で国際的に見ても安い国になりつつあります。
とはいえ、当時G7の中で日本の1人あたりGDPはアメリカ、ドイツに続いて3番目と比較的高い水準ではあったようです。
1人あたりGDP 名目 購買力平価換算値
1997年 単位:ドル
1位 96,713 アラブ首長国連邦
12位 31,440 アメリカ
18位 26,233 ドイツ
19位 26,016 日本
20位 25,960 イタリア
22位 25,473 カナダ
24位 24,764 フランス
28位 23,489 イギリス
図6が2023年の国際比較です。
やはり中東諸国が上位ですが、ルクセンブルクやアイルランド、シンガポール、台湾なども高い水準のようです。
日本は購買力平価換算値でも大きく順位を落としていてG7最下位となり、韓国やイスラエルを下回ります。
1人あたりGDP 名目 購買力平価換算値
2023年 単位:ドル
1位 141,380 ルクセンブルク
9位 81,632 アメリカ
22位 65,584 ドイツ
26位 59,712 カナダ
28位 58,647 フランス
30位 57,492 イギリス
31位 56,552 韓国
33位 55,144 イタリア
38位 52,215 日本
日本は購買力平価換算値だと38位となり、為替レート換算値の34位を下回ります。
主要先進国は軒並み順位を落としていますが、日本の低下具合が大きいようです。その中でもアメリカは順位を上げているのが印象的です。
6. 1人あたりGDPの特徴
今回はIMFのデータを基に、世界各国の1人あたりGDPについて国際比較してみました。
日本は為替レート換算値でも購買力平価換算値でも、大きく国際的な順位を低下させています。
購買力平価換算値は、数量的な経済水準を比較する指標となりますが、新興国は為替レート換算値よりも割増しされて評価される傾向になります。
新興国の経済水準が上昇する一方で、日本も含めて主要先進国の国際的な立ち位置が低下している事が良くわかる結果ではないでしょうか。
また、普段ご紹介しているOECD以外の国では、中東諸国やシンガポール、香港、台湾などの水準が高いようです。
次回からは、世界各国の1人あたりGDPについて、地域ごとに詳細にご紹介していきたいと思います。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2024年10月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。