自衛官待遇改善は画餅にならないか

自衛官待遇 、民間水準へ 初の閣僚会議 日経新聞

防衛力強化に必要な自衛隊の処遇改善に向けて、石破茂首相が議長を務める閣僚会議が25日に初会合を開いた。

首相は首相官邸で開いた会議で「自衛官が国防という枢要な任務に誇りと名誉をもって専念できるよう、万全の体制を構築する」と述べた。自衛隊の処遇改善は首相の持論で、政権の主要政策の一つに掲げている。

実は以前から石破さんにはこの問題の深刻さを何回もお話してきました。

自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する関係閣僚会議 首相官邸HPより

そしてその問題の根源は少子化以前に防衛省と自衛隊の当事者能力の欠如にあると拙著「国防の死角」でも12年前から指摘してきました。

対策には省庁横断で取り組む。防衛省だけでなく財務省や文部科学省、国土交通省などでも改善案を検討する。給与や手当の増額、募集にあたっての連携といった幅広い項目にまたがるためだ。

24年3月末時点で自衛官は定員の1割ほどの欠員が生じている。23年度の中途退職者数は6200人ほどで、19年度から3割超増えた。

採用想定人数に対する充足率も23年度は過去最低の51%だった。特に最も階級の低い「士」の職務に就く任期制自衛官の候補生は計画の30%ほどしか採れなかった。
現状の自衛官の処遇は民間や他の官公庁と比べると水準が低い。

定年退職も体力維持の観点から自衛官は早い。現場の幹部として働く「佐」や「尉」は最高で58歳。自衛隊制服組トップの統合幕僚長は62歳だ。
国家・地方公務員が31年度までに段階的に定年を65歳まで引き上げるなかで、早期の定年退職は生活基盤の維持にも懸念材料となる。

処遇改善策として、退職した自衛官の再就職を支援する組織を立ち上げる案もある。OB・OGが防衛に関わる後方業務などの仕事に就けるようにする。
将来的には支援組織を通じて交通サービスなど人手不足の民間企業に人材提供することも想定している。防衛省だけでなく関係省庁と連携して具体策を探る。

初めから不吉な予言をするとこの試みは失敗します。今まで通りの方法でやればそうなります。前例を廃して取り組むべきです。特に防衛省と自衛隊の関係者に主導権を握らせない。それは当事者意識と能力がないからです。そしてクズのような組織文化が蔓延しているからです。彼らに任せれば組織防衛のためにすべての改革が骨抜きになってしまいます。

たとえば簡単にできる改革すら彼らはやってこなかった。

たとえば、陸自では銃剣道というチャンバラごっこを専任でやらされている隊員がいます。これはOB利権で、銃剣道大会の成績が部隊長の評価にもなります。これは事実ですが改革派だった吉田幕僚長(現統幕長)ですら、その事実を認められないわけです。

つまり陸自という組織は国防よりもOBの利権を大事にする、国滅びてもOB利権を確保したい、そういう組織です。改革ができるわけがない。

また以前から申し上げておりますが、航空機の整備などの資格が民間と異なるので、同じ仕事を民間で仕事ができない。だからエアバスヘリの訓練、整備施設でも指導員のパイロットは元自衛隊のパイロットが働いていますが、整備員はゼロでした。

これなどすぐにでも着手できますが、全く手がつけられてこなかった。それは法改正が面倒くさいからなのでしょう。それで政策官庁ですか。

また来年度の予算で陸自のヘリ初等訓練が民間に移行する話が進みますが、本来これは退職者雇用を重視した企画入札ですが急に入札方式が変わりました。コストの削減だけが主眼となって再雇用は期待できないでしょう。

また以前から50歳以上の隊員を学校やその他の自衛隊の機関では、通常の公務員で予備役扱いにして65歳まで雇用することを提案してきましたが、これもハードルは低いはずですが、実現していません。

ぼくは改革のための組織を内閣府に置くべきです、ただNNSは伏魔殿なので距離を置くべきです。各省庁から横断的に人間を集めて、トップは防衛担当の主計官を経験した財務省の人間を当てるべきです。

あとはアイディアを持った民間人から意見を吸い上げてプラン化することです。下手をすると新しいプランや組織が「クールジャパン」事業のように税金チューチューの政治ゴロの掴み金になりかねない。これを防ぐ仕組みがぜひとも必要です。

石破首相は地方創生と民間防衛組織を提唱していますが。ぼくが以前から申し上げている「屯田兵部隊」はどうでしょうか。陸自から40代以上の隊員を移籍させて、民間防衛部隊を作る。これを中隊規模で地方において、その家族も近くに住まわせる。普段は農業、林業などを職業訓練も兼ねてそれをやれば収入を得れば税金の支出を減らせます。途中で退職して農家を始めるから資金を提供してもいいでしょう。耕作放棄対策にもなります。

また害獣駆除も担当させるべきです。その任務には現役の狙撃手を出向させるべきです。

維持の予算は一部自治体も持つべきです。その自治体で一定の人口が確保できることになるので多少の支出は投資と割り切れるはずです。

全員が即応予備レベルの訓練を毎年一定期間受けるようにする。

災害が起こればこの部隊を投入する。そのための指揮系統と司令部機能も必要です。それでたりなければ自衛隊を投入する。

またあわせて自衛隊の「文化革命」が必要です。応募が少ない、中途でやめるのは、組織の批判を異端としていじめやハラスメントの対象にする歪んだ組織文化があります。そして世間は敵だ、自分たちは世間やマスコミに常に叩かれているという歪んだ被害妄想も強い。基本カルト宗教と大同小異です。まともな人間はやめて当たり前です。これが最大の人員問題の原因です。

悪いことをするやつはあぶり出して、防衛省の正門の前にな縄で縛って赤い三角帽被せて、自分は国賊ですとプラカードを下げて晒し者にするべきです。

組織文化改革のために徹底的に情報開示を行う。米軍と同じレベルで情報開示を行うという目標を立てるべきです。何なら米軍の専門家を「お雇い外人」して採用すべきです。

パワハラやセクハラなど法令無視をする人間は厳しく断罪する。

更に幹部のカルト化の元凶である防衛大学を解体して、一般大学から幹部候補生学校というルートに1本化する。

こういう改革は当事者の防衛省や自衛隊、そして専門知識がない「御用有識者」には無理でしょう。まずは失敗しないための組織を作るのが肝要です。

東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。

「自衛隊員の手榴弾事故」現状の対策は不十分な訳旧式の危険な手榴弾が訓練でも使用されている

Merkmal(メルクマール)に以下の記事を寄稿しました。

航空自衛隊のT-7後継機取得 「官製談合」疑惑が再燃するなか、透明な入札は実現できるのか?

率直に言う 陸上自衛隊の戦車は「全廃」すべきだ

「石破首相 = 軍事オタク」は本当か? 防衛知識ゼロの他政治家が国を守れるのか? 石破氏を長年知るジャーナリストが“真実”を語る

月刊軍事研究に「ユーロサトリでみた最新MBTの方向性」を寄稿しました。

軍事研究 2024年 11 月号

Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。

European Security & Defenceに寄稿しました。
JGSDF calls for numerous AFVs within Japanese MoD’s largest ever budget request

東京新聞にコメントしました。
兵器向け部品の値段「見積り高めでも通る」 防衛予算増額で受注業者の利益かさ上げ 「ばらまき」と指摘も

東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
海上自衛隊の潜水艦メーカーは2社も必要あるか川重の裏金問題で注目される潜水艦の実態


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2024年10月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。