初めての左派系大統領誕生による弊害
南米のコロンビアは長年右派政権が続いていた。ところが、長年の社会的不平等は一向に解決を見ることがなく、貧困者は人口5100万人の40%を占めるまでになっていた。
これまでの右派政権の取り組みが十分でないとして、遂に2019年に若者が中心となって抗議デモが発生。それが引き金となって、2022年に初めて左派系の大統領が選ばれた。
彼の名前はグスタボ・ペトロ。彼は既に消滅しているゲリラ組織M19のメンバーであった。議員としての経験はボゴタの市長そして上院議員を務めた経歴をもっている。しかし、彼の根本的な思想は社会主義だ。それは右派が支配するコロンビアでは容易に受け入れられない。
元ゲリラ兵で社会主義者が大統領になったということで、米国政府は今後の両国の関係に強い懸念を表明していた。特に、コロンビアは米国が南米で最も信頼を寄せている国で、南米における米国の航空母艦と評されている国である。
その信頼関係からコロンビアはこれまで米国から購入する武器は常に新品の物が調達できるようになっている。一方、米国の信頼が足りない国は米国から新しい武器は購入できず、常に中古品を買わされることになっている。
米国からのコカ撲滅の支援金が半分に
米国のペトロ大統領への懸念は昨年から表明されていた。米国がコロンビアに対して支援金をこれまで提供して来たのも、コロンビアはコカ生産量では最大の国であり、その被害を最も受けているのは米国だからだ。コロンビア政府に資金を提供してコカの生産量を減らしてもらうといういうのが狙いだ。これを長年実施して来た。
ところが、ペトロ大統領の米国に協力する姿勢に積極性が欠け、これまで犬猿の中にあった隣国のベネズエラとの関係を強化している。
ベネズエラは政府自体が麻薬組織化しており、軍人らによってカルテル・デ・ソレスという麻薬組織も構成されている。彼らは麻薬生産国から麻薬を買い付けて、それを主に米国に密輸している。だから、コロンビアのコカもカルテル・デ・ソレスにとっては重要な供給元になっている。
コロンビアが右派政権だった2018年には6万ヘクタールのコカの栽培面積を政府は駆除した。2019年には9万4000ヘクタール、2020年には13万ヘクタールまで栽培面積を減少させて行った。
ところが、2021年は前年よりも少なく10万3000ヘクタールの駆除。2022年になると、ペトロ大統領が6月に就任したこともあって、駆除された栽培面積は僅か6万8000ヘクタールまで減少。その理由は栽培面積の少ない農家を保護する方向に向かい、駆除するのは麻薬組織の為に量産している栽培地に絞ったからだ。(2024年6月11日付「エル・ヌエボ・シグロ」から引用)。
このような現状を観た米国議会はコロンビアへの支援金の削減を米政府に要求。今年の支援金は4億1000万ドルであるが、ペトロ大統領への信頼は完全に薄れ、来年はその半額の2億800万ドルとしたのである。
政府の財政事情も悪化
更に、左派政権になってからコロンビアの財政事情も急激に悪化している。ペトロ政権になってから財政支出のコントールが緩和になり、議員らによる多額の汚職も目立つようになっている。また官僚は財政危機のある中で給与を挙げたりもしている。
元々、右派政権が長年続いて来たコロンビアだ。左派系の人物が大統領に成ったが、彼の議会での影響力は低く、行政組織のコントロールができないでいる。それが財政の支出を煽っているということだ。政府の資金不足から病院や私立大学では必要な資金を賄うことができず、解雇も目立つようになっている。
その一方で、コカの輸出は2022年には182億ドルまで達し、原油の輸出額191億ドルに迫っているという皮肉な現象も左派政権で起きている。(6月11日付「パナムポスト」から引用)。