ブルガリアで安定政権が発足できるか

26日、27日は選挙デ-だった。日本では衆議院選挙が行われ、欧州ではジョ-ジア(グルジア)、リトアニア、そしてブルガリアの議会選挙(一院制、定数240)がそれぞれ行われた。欧州駐在の当方は母国日本の総選挙の結果を気にしながら、ブルガリア議会選をフォローした。

「政府不在」期間、政治的影響力を強めるブルガリアのラデフ大統領(ブルガリア大統領府公式サイトから)

集計93.27%の段階での各政党の得票率(ソフィア通信社から、2024年10月28日)

GERB-SDS – 26.31%
Continue the Change – Democratic Bulgaria (PP-DB) – 14.79%
“Vazrazhdane” – 13.65%
DPS – New Beginning – 10.66%
BSP – United Left – 7.7%
Alliance for Rights and Freedoms (APS) – 7.02%
There Is Such a People (ITN) – 6.94%
Moral, Unity, Honor (MECH) – 4.66%
“Velichie” – 4.07%

ブルガリアは旧ソ連・東欧諸国の民主化後、2004年に北大西洋条約機構(NATO)、2007年に欧州連合(EU)に加盟し、立派な欧州の一員として歩みだしているが、過去3年半で7回目となる選挙が今回行われたのだ。同国では投票の結果、安定政権が発足できないため、短期間で議会解散、総選挙といったパタ-ンが繰り返されてきたわけだ。それと同時に、国民の政治への不信感が高まる一方、メディアの関心も減少していった。オ-ストリア国営放送は27日夜、早速「ブルガリア、再び難航する政府探し」という見出しをつけて報じていた。

まず、過去3年半の同国の7回の選挙を簡単にまとめる。

同国では、①2021年4月、第3次ボリソフ政権(「ブルガリアの欧州における発展のための市民」=GERB)の任期満了に伴う議会選挙が実施されたが、選挙後の組閣工作が失敗に終わった。②21年7月に再選挙が行われたが同様の結果に終わった。③同年11月の3度目の議会選挙後、第1党となった新連合「変革を継続する」(PP)を中心とする反ボリソフ同盟のぺトコフ新連立内閣が同年12月に発足したが、連立パ-トナ-の連立離脱を契機とする内閣不信任決議案の可決を受け、2022年6月に総辞職に追い込まれた。④同年10月の選挙後も新しい政権が発足できない状況が続き、ルメン・ラデフ大統領によって任命されたガラブ・ドネフ暫定政権が続いてきた。⑤2023年4月2日、そして⑥2024年6月9日に、前倒し選挙が実施され、ボリソフ氏のGERBが最大の得票を獲得したが、安定政権は発足できなかった。その結果、⑦3年半で7回目の総選挙が10月27日実施されたわけだ。正式な政府が発足するまで現行の暫定政権(ディミタル・グラフチェフ首相)が引き続き政務を担当してきた。

27日の総選挙の暫定結果を紹介する。ボイコ・ボリソフ元首相が率いる中道右派連合GERB-SDSが第一党となる見込みとなった。世論調査機関ガロップ・インタ-ナショナル・バルカンとアルファ・リサ-チの予測によれば、GERB-SDSは有権者の25.1%から26.4%の支持を集めた。一方、リベラル保守派の連合PP-DB(「民主主義的ブルガリア」)は14.9%から15.4%で2位につけた。両連合はブルガリアの欧米寄りの方針を維持し、ロシアの侵攻を受けたウクライナへの支援を続ける意向だ。両連合は過去1年にわたって正式な連立協定なしで共同統治してきたが、改革、人事、腐敗対策などを巡る対立が原因で崩壊した。

今回も同様の連立が成立するかは27日の投票日夜の段階では未定だ。安定した多数派の新政権には時間がかかると見られている。3度首相を務めたボリソフ氏は投票時、「人々は政府に、安定、そして安全を求めている」と述べ、主要政党との協力に前向きな姿勢を示した。一方、PP党首のキリル・ペトコフ氏はボリソフ氏への協力を拒否し、「保守派のボリソフ氏と連携するつもりはない」と既に述べてきた。

ボリソフ氏は「(親ロシア派の)復活党を除く全ての議会政党と話し合う用意がある」と発言する一方、「イタリアのマリオ・ドラギ氏のように無党派の首相を任命する」というPP-DBの提案を拒否し、「それは有権者の意向を無視するものだ」と反論している。

ブルガリアでは2021年の反汚職デモによって当時のボリソフ政権が崩壊して以来、政治的に不安定な状態が続いている。2025年のユ-ロ圏加入申請やEUからの巨額の資金割り当てを危うくする可能性が出てきたのだ。

ちなみに、政権の不安定を煽り、勢力を拡大しているのは極右「復活党」だ。復活党のコスタディン・コスタディノフ党首は27日、「ブルガリアは外国の干渉を受けず、独立した国であるべきだ」と述べ、ブルガリア・ファ-ストを標榜している。GERBは復活党との連携に関心を持っているが、EUのブリュッセルやワシントンは復活党が参画した新政権の発足には批判的であることもあって、これまでは一定の距離を置いてきた。

民主主義国では選挙で過半数を獲得できる政党はもはや少なくなった。だから、選挙後、3党、4党の多党から成る連立政権が生まれてくるケ-スが増えてきた。安定政権を組閣するためにはどうしても政治信条の異なる寄せ集めの政権となりやすい。

その意味で、ブルガリアの政情が特別、異常とはいえないが、長期安定政権の不在、政治的膠着状況が続くようだと、名誉職的な立場のラデフ大統領の政治的権限が強まり、「議会制共和国」から「大統領制国家」への移行が現実味なアジェンダとなってくる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年10月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。