ビジネスの着眼点:サラリーマン社長の増加が無くした「会社の伸びしろ」

先日の「今週のつぶやき」でテスラの経営は自動車会社の視線ではなく「技術創造の会社」であると申し上げました。この経営思想は企業経営に於いて生み出す製品やサービスの発想を根本から覆す哲学だと思うのです。イーロン マスク氏は技術創造をするために例えばEVやロケットというプラットフォームを使ってその創造力を大きく膨らませてきたのです。この発想は日本の企業には少なくなってしまい、敢えて言うなら創業者系の企業にわずかに残るだけになっています。

柳井正氏 ユニクロHPより

日本で創造系の代表企業の一つはユニクロ(ファーストリテイリング)だと考えています。えっと驚くでしょう。なぜおまえはそう思うのかと。私は同社が進化する過程をずっと遠くから眺め、時として購入し、その使い勝手やバリューも見てきました。何が他のアパレルと違うかと言えば機能性を重視した先端技術なのです。

昨年の6月だったと思いますが、日本に出張に行った際、暑くて汗だくでワイシャツに汗が通り抜けてしまい困ったことがあります。普段はワイシャツの下には何もつけないで着るので下着のシャツを着るという認識がなかったのです。そこでユニクロに駆け込み、エアリズムのシャツを数枚購入し、これを早速身に着けるとめちゃくちゃ楽だということに気がつきました。普通のシャツではここまで爽快にはなれないでしょう。あれは感謝でした。

柳井氏はファッションに関してはベーシックという発想を崩さず、高機能性の衣服を長期間着られるようにするという発想を展開します。ザラやH&Mなどライバル社と発想の違いを見せつけました。これが今、着実に開花し、今週号の日経ビジネスでは久々の柳井氏大特集を組み、欧州で売り上げが爆増していると報じています。以前ユニクロの店舗から大量に盗難してベトナムで「高級衣料品」とし売り捌いていたベトナム人グループが摘発されたという事件がありましたが、この機能性衣料は他社がそう簡単にまねできない点で私は大いなる価値があると考えています。

実は私にもビジネスの哲学があります。長年住宅を作ってきた中でデベロッパーとは何であるべきか、というテーマです。私の結論は「ライフを生み出し、コミュニティを介した人間関係を作る場」を提供しているのだと考えています。カナダで高層マンションを建築していると仮囲いは一階部分しかないのでコンクリートの躯体がどんどん上がっていくのがよく見えます。私はそれを見ながら「この四角いコンクリートの壁の内側を数千万円から億単位の金額で売るのが私の仕事ではない、そこに居住する人がどれだけ幸せになれるかそして同じような思いの人たちがコンクリートの壁を隔てたところで共有する関係から建物全体のコミュニティを創造するのが私の仕事」と考えたのです。私がまだ35歳ぐらいの時です。

それ以降、木造も含め、ずいぶん作ってきましたが分譲マンション以外は自分で作った建物を自分で所有し、賃貸しながらコミュニティを作り上げる演出をずっとしてきています。アパートの大家が不動産屋に仲介から賃借人とのやり取りまで全部任せ、自分は銀行口座に振り込まれる家賃ににんまりしているというのは私のスタイルではないのです。だから不動産屋に仲介もお願いせず、集客は全部自前で行い、潜在顧客とやり取りして入居者を決め、入居後の一切合切も全部自分たちでやるのです。私の役割は住民にとってのコンシェルジュなのです。

日本でシニアが家で転倒して骨折した話をよく耳にします。シニアが骨折すると生活テンポがそこで狂ってしまい、たとえ治癒後も元のペースに戻せなくなるケースを多々目にしてきました。家で転倒し骨折しないようにすることはシニアケアのビジネスもしている私としては大きな意味があります。そこで出会ったのが「ころやわ」の商品名で名が知られてきたマジック シールズ社の社長。同氏と何度か会い、カナダに輸出し試したところ、素晴らしい成果があり、実際にシニアの方が何度か転倒しても骨折しなかったのです。今、私は「ころやわ」を大量輸入している最中です。同社社長とこの製品の普及をカナダで展開させるため仕組みを作り上げるのです。その社長も志があるのです。どうやったら骨折しないか、機能性を高めることに注力してきたわけです。素晴らしいアイディアマンで私は良い方に出会ったと思っています。

過去何度も申し上げたと思うのですが、ビジネスは金儲けをするためにやるのではないのです。自分の能力をどう社会に還元し、社会がより高いスタンダードのライフを築くことができるかを第一義とする発想なのです。その結果、それが社会の要求と一致した時、販売が伸び、自分の報酬に繋がるのです。社長は社員や関連会社、顧客に対する伝道師であり、その熱い思いをメッセージとして伝えなくてはいけないと考えています。その考えを共有することで従業員が一体になり、顧客のファン層が増えるのです。稲盛和夫氏はまさにその極致にあったのでしょう。

サラリーマン社長が増え、役員レベルでも待遇云々でぐずぐず言う方を時々お見掛けします。残念です。役員になるまで長年その会社で勤めあげながら報酬や待遇が第一義だとしたら会社の伸びしろは無くなってしまうのでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年10月30日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。