意外と見つかる投票の意味
落選候補者への投票の意味「死票」とは言うが…
落選候補者への投票の意味について。
「死票」という言葉がありますが、これは投票した先の者が当選しなかった場合に「議席数獲得の観点」からは無価値と評価されることとなるということを比喩的に表現したものに過ぎません。
実際には、落選候補者への投票には以下のような効果があります。
- 政党からの候補者の場合、政党交付金の算定額が増える
- 比例代表の惜敗率に影響
- 供託金没収ラインに影響
- 国政政党ラインに影響
- 法定得票数に影響
- 個人の得票数が政策への信任の目安になり、当選者や各政党の政策に影響
- その者の今後の影響力に繋がる
おそらくは、こうした効果が見えていないがために投票する意義を見いだせていない有権者は多いのではないでしょうか?
得票数は政党交付金の算定額・衆院比例代表の惜敗率に算定
政党交付金の算定額に関しては、政党要件を満たす政党の届け出候補者や所属候補者などの得票数が考慮されます。たとえ当該候補者が落選したとしても、その得票によって政党交付金の算定額が増え、当該政党の利益になります。
次に、衆議院議員選挙の小選挙区の候補者が比例区でも重複立候補していた場合ですが、比例代表の選出にあたっては小選挙区の候補者の得票数が「惜敗率」の算定に考慮されるため、小選挙区で当選しないことが予想されたとしても意味のある投票になります。
詳しい根拠法令は以下でまとめています。
供託金没収ライン・国政政党ラインや法定得票数に影響する
少数政党・政治団体だと、供託金没収ラインや国政政党ラインに届くかどうかも重要になってきます。
立候補の乱立を防ぐための供託金は衆議院議員選挙で300万円となっていますが、全体の有効投票総数の10分の1に達しない場合には没収され国庫に帰属します。
国政政党ラインとは、国会議員を5人以上有することや直近の国政選挙において全体の投票数の2%の得票を得ることを指します。法律上「政党」というときは、一般にこの国政政党を指します。政党要件を満たして国政政党になると先述の政党交付金が受け取れるようになります。
また、政党は政治資金団体を届け出ることができ、それにより普通の政治団体と比べて「団体献金を受け取ることができる」「寄付総額の制限が政党と同じ制限であり通常の政治団体より制限が緩い」「政党匿名寄付を受けることができる」「寄付者は政党等寄付金特別控除を受けることができる」などの特典があります。
制度上の他の影響としては、法定得票数に影響する場合が想定されます。各選挙毎に異なりますが、例えば衆議院の小選挙区選出議員選挙では、有効投票総数の6分の1以上の得票を得なければ、当選人が生まれないという事態が起こります。
具体的に言えば、当該選挙区に7人以上が立候補して、全員が16.6%未満の得票数しかなければ、その小選挙区では誰も当選者が出ないことになります。この場合は再選挙となり、候補者の入れ替わりが行われる可能性があります。*1
なので、当選を望まない者以外への投票は、当該望まない候補者の得票率を下げることに貢献できるわけです。まあ、こういうケースはほぼ生じないでしょうが。*2
政策への信任の目安で他党への影響、候補者の政党内外での影響力
候補者のその後の影響力について。
得票数はその人の主張する政策についての一定の信任と受け止められる場合があり、当選した者や各政党の政策に影響します。
落選した候補者は、次回の選挙で公認されるか否か、友党から推薦されるかどうか、選挙区の鞍替えや国政・都道府県・市区町村の長や議員の選挙への転身となるのかなど、得票数や対立候補とどれほど競ったのかが考慮されることになります。
芸能界や本来の事業に戻るにしても惨敗と惜敗ではTV番組等に「お呼ばれ」する可能性は変わるでしょう。
投票の効果は単発の選挙の結果にだけ寄与するわけではない。
野党議員が居る事の意義と「野党第一党」の立場、政策協定や手続
落選しなくとも、中には「この候補者が当選しても与党じゃないから投票しても意味が無い」などと考える人が居るかもしれません。
しかし、その候補者が「野党第一党=最大野党」になるか否かは、我々一般人にとって思いのほか大きな意味を持ちます。
一例ですが、衆参議院の副議長は時の最大野党が担う慣例となっています。衆参の副議長は皇室会議の構成員になるなど、国家において重要な役割を担う場面があります。
令和6年5月23日 天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議に基づく政府における検討結果の報告を受けた立法府の対応に関する全体会議
衆議院議員(玉木雄一郎君)
これ最終的にまとめていく上では、与党第一党の自民党さんと野党第一党の立憲民主党さんの意見がやっぱり一致することが私は重要だと思います。もちろん我々も違憲を申し上げますけれども、根本のところにおいて野党第一党と与党第一党が違憲が違っていたのでは結論が出ないと思いますので、まずはそれぞれの与党第一党、野党第一党の代表者でおおむね意見の一致を見ていただくことが私は全体をまとめていく上では不可欠だと思っておりますので
令和6年6月14日 天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議に基づく政府における検討結果の報告を受けた立法府の対応に関する各政党・各会派からの意見聴取(日本維新の会)
日本維新の会 藤田文武君
立憲さんはやはり野党第一党ですから、我々もちゃんとご意見を拝聴した上で丁寧に議論すべきお相手だというふうにもちろん思っております。
上掲の会議体では、どのような少数政党・会派であっても議論の場に参加することとなっており、議会に1人でも送りこむということは大きな意味があることの証左です。
衆議院・参議院や地方議会としての声明を採択する際には、どんなに数の少ない政党であっても、事前に話を通して協議を受け入れる姿勢を見せるのが通例です。
歴史を紐解くと*3、かつて野党第一党だった社会民主党は現在は1名のみ、社会党の後に最大野党となった新進党は後掲組織としても現在は国政政党としては消滅しています。なので、野党第一党が変わることはあり得るわけです。
白票に意味が付与され得るのは無効票の差が明確な場合:選択肢が無い場合の最終手段
白票を投じるのは、当該選挙区において投票したい候補者が居ないという、選択肢が無い場合の最終手段です。そうでもないのに安易に「白票でもいい」という想念が蔓延するのは、有権者が候補者を見定める力が育たないし、誘導的言辞に騙されることになりかねません。
誘導的言辞とは、例えば「とにかく白票でもいいから投票に行け」と言われることがあります。この甘言は、白票が現職候補にとっての不信任を意味するものとしてメディアに報道されることがあるため(※本来は他の立候補者への不信任の意味でもあるにもかかわらず)、知事や市長などの首長選挙に際して、普段からの対立陣営側から流されている可能性すらあります。それは民意を受けた為政者の判断を歪めさせるものです。
活動家らは誰が選挙で勝とうが負けようが、自分らの政策を通そうと世論誘導、自治体行政への浸透を図っているため、そうした動きにとって都合の良いものとして利用されるかもしれません。
そして、白票はそれ単独では集計されません。他の無効票と一緒に集計され、「白票を含む無効票が●●%」のように報道されるだけです。*4
そのため、その無効票の割合が、従前の選挙と比べて有意に多くなった場合に、初めて「白票に意味がある」かもしれない状況=他に選択肢が無いと住民が考えていると言い得ることが、当選者や政党、世論に可視化されるにすぎません。*5
例:神奈川県知事選で白票など無効票が大幅増 過去の不倫発覚の黒岩氏「私に対する批判と受け止める」 2023年4月10日 21時44分 東京新聞
そのような状況は限局的であり、一般的には「白票に意味は無い」のであるから、殊更に白票を投じることの意味を論じるべきではありません。実態としては投票を棄権する行為ですからね。
上述の通り、全体の投票数から見た得票率によって、政党や候補者が様々な恩恵が得られるか否か、或いはその程度が変動します。そのため、たとえ自分が投票したい候補者がいなくとも、一番当選したら困る候補者や政党ではない者への投票をすることによって、(ある意味で)微々たる嫌がらせができる余地がある。
一般的に無意味である白票について、これらの考慮を経てもなお自己の選挙区においてはそうせざるを得ないのだ、という究極の選択肢に至ったのならば、それは否定しません。そうした悩みを経た白票は、投じた人にとって意義のあるものでしょうが、果たしてそこまでに至る人はどれほどなのか…投票した方が早い、ということになるんじゃないでしょうか?
*1:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/hoju_rikkouho/pdf/070611_1_4.pdf
*2:過去の再選挙の事例
*3:衆議院・参議院 選挙の歴史 | NHK選挙WEB
*4:Q.無効票とはどのような票ですか? – 狛江市役所
*5:※無効票は「候補者でない者の氏名を書いた」場合もある。例えば出馬を断念せざるを得なかった人の応援者が、その人が最終的に立候補していないことを知らなかったり、その人を望む気持ちを表したいからと言って書くような場合が考えられます(SNSで「そうしようかな」と書いてるのが見られる。そう書いたことは伝わらずに無効の扱いになるので厳禁)。こんな事態が生じるのか疑問が浮かばないではないが、この場合、無効票の意味は変わってくる。
編集部より:この記事は、Nathan(ねーさん)氏のブログ「事実を整える」 2024年11月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「事実を整える」をご覧ください。