西側諸国はインドを取り込めるのか? 中国の方が組みやすい困難の極み

世界一の人口、14億4千万人を抱えるインドはGDPも日本を猛追しており、さほど遠くないうちに抜かれるでしょう。人口が作り出すGDPの総和の効果を考えると少子高齢化の日本では太刀打ちできるものではありません。

一方、これだけの大国をどうやってまとめていくのか、多民族国家で経済がテイクオフしつつある今、インド政権にとってそのコントロールは至難の業でありましょう。一方で西側諸国からすれば是非とも民主主義陣営に取り込みたいところであります。そのためにクワッドを結成、アメリカ、オーストラリア、インドそして日本の4か国が仮想的に中国を囲い込むという目的で連携を作っています。

ナレンドラ・モディ首相インスタグラムより

直近では9月21日にアメリカでクアッドの会合が開催されており、様々な分野の協議がなされています。

クアッドの目的の一つは「覇権主義的な動きを強める中国などを念頭に、法の支配に基づく国際秩序を維持するとともに、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた取り組み」(NHK)とあります。日本では狭義の意味で中国包囲網のような色合いで認識されていると思います。

ただ、9月の会合の内容を見る限りそのような戦略的意図よりも経済連携の方が強く、3か国がインドに様々な協力を行うとする3つのベクトルが全部インドに向かっていくような会談に見えます。

なぜ、そこまでインドを慮るのでしょうか? 私の見方はインドと西側諸国の関係は薄氷、よってインドをよいしょしないとインドはこちらを向いてくれない、そういう力関係に見えるのです。

そもそもアメリカとインドの外交関係は歴史的に「渋い関係」とされますし、以前お伝えしたようにカナダとインドの関係が壊滅的に悪化している一方、カナダはアメリカと強力なアライアンスを持っています。つまりインドが嫌いなカナダはアメリカと大の仲良し、ならばインドはアメリカとは適当に付き合う、これが妥当な見方なのかもしれません。

10月25日のカナダ国営CBCのトップニュースには衝撃的タイトルがついています。「India makes it clear it’s not interested in a Western alliance (インドは西側諸国との連携に全く興味なし!)」。この記事はロシアでBRICSが開催されたことを受けたものですが、プーチン氏の両隣に習近平氏とモディ氏が座るというシーンがモディ氏の立場を表しているともされます。

また日本国内で報じられたようにこのBRICSの際に、長年、国境紛争問題があった中国とインドがその紛争解決に向けた展開をすることで合意しました。

習氏とモディ氏がなぜ国境問題で譲歩する気が起きたのでしょうか?モディ氏に限らずインドの政策は非常にわかりにくく他人に迎合しないところもあります。例えばロシアがウクライナを攻め始めた際、各国が制裁に乗り出し、モディ氏もプーチン氏に苦言を呈する一方、ロシアの原油を買い付けることを推し進めました。

もっと古くは東京裁判で反対票を入れたのはインドの判事だけだったという話もありました。このあたりは非常にわかりにくいインド独自の価値基準を持っているともいえます。二枚舌外交というより個別判断主義といったほうが良いのかもしれません。

では日本はインドを政治的に取り込めるのか、といえば相当困難だと考えています。ずいぶん前にこのブログで何度か申し上げたようにインド人が欧州人と同じアーリア人を先祖としており、インドは西側と白人社会に向いています。よってインドの東にある中国や日本とは歴史的結びつきは案外薄い上に地形的に厳しい山地を経ており、文化や経済ルートが作りにくかったのではないかと考えています。

またインドと日本の地政学的位置関係、経済的関係を見た時、中国が経済発展していない時代であればともかく、今やインドが欲しいのはより強力な経済支援であり、規模の経済がある中国の方が組みやすいことは確かであります。

とすればクワッドは形骸化していくのでしょうか? そうかもしれません。特にアメリカの大統領がトランプ氏になれば氏が嫌いな多国間同盟の一つであるクワッドに積極的姿勢を見せるとは微塵も思えないのです。

日本の首相も半年、1年後に誰になるのかわからない中でアメリカ、インドという大国が入るクワッドでどう存在感を示すのか、困難の極みであります。(個人的には安倍、岸田という外交に強いトップだったからこそできた業だろうと考えています。)

そうかといってインドという世界最大の人口大国で今後、大きな経済成長が期待できる国を指をくわえて眺めているだけというわけにもいかないでしょう。多分、民間ベースでインド進出するのがベターなのですが、インドは中国以上にビジネスが難しいとみており、日本人の感覚ではとても太刀打ちできないかもしれません。自動車のスズキのように長い時間をかけて築きあげれば別ですが、今はインド人もしたたかであり、「そうは問屋が卸さない」という気がします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年11月4日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。