このブログがアップされる頃、私は当地、Simon Fraser Universityで150人の学生を前に日本のビジネスマンとして挨拶をしています。日本の存在感はひところに比べれれば確かに沈下したのは事実ですが、幸福度はこの30年間、紆余曲折しながらもしっかり上昇し、日本は世界に誇れる幸福度、安定度、安心度のバランスがとれた国家を作り上げてきたことに誇りを持っていると申し上げます。日本から学ぶのはテクノロジーだけではないとカナダの優秀な学生の皆さんに声高に訴えたいと思っています。多くの学生は今の世の中に必ずしも満足しておらず、その行く道を探しています。日本がその解を提示しているとしっかり伝えてきます。
では今週のつぶやきをお送りします。
FRBは我が道を行く
昨日のFOMC後のパウエル議長の記者会見を生放送で見ていて「政治には一切コメントせず」「新政権が動き出すまでには時間がかかる」そして「トランプ氏の辞任圧力には屈しない」と非常に明白な声明を出したのが印象的でした。事実、トランプ関税が実施されるのはまだ先、そしてそれが物価変動に影響出るにはタイムラグが発生するため、仮に1月の就任直後にそれを実施したとしても統計的に確認できるのは4月ぐらいになるとみています。
パウエル議長は粛々と与えられた任務を全うするわけですが、このところ議長の口調が割とスムーズなのはようやく思惑通りインフレ率が下がってきたことで自分たちが信念を貫き通したことへの安ど感もあるのでしょう。ではトランプ氏はパウエル氏をそれでも解任するか、といえばしないとみています。理由はトランプ氏が文句を言っていたのは夏ごろの「高すぎる金利」でありそれを下げないパウエル氏を批判していたのです。今、利下げサイクルにある中でパウエル氏をそこまでして解任する理由はなく、手のひらを返したように最終的には「よくやった」ぐらいいう気がします。
利下げの流れは世界的流れで2025年も日本を除き、そのトレンドは継続すると思います。また消費が肌感覚として思ったほど力強さがない感じがするので「関税インフレ」になると消費力が更に落ち、国内産業の底支え/再構築という長期的チャレンジの前に目先の経済の不安定さが先に出てきてしまうかもしれません。トランプ氏はビジネスマンであり、マネーの匂いをかぎ分ける能力は非常に高いと思いますが、この1-2年の経済現象はかつて教科書で習ったような単純な事態ではありません。トランプ氏はパウエル氏と上手に協調して経済運営を図るほうが得策になると考えています。
大丈夫か、日産自動車
内田誠氏が日産の社長に4年ほど前に就任した時、私は「違う!」と申し上げました。それでも内田氏が選ばれたのは当時はまだルノーとの悶着があり、日産の屋台骨がぐらついていたからです。同志社大学神学部出の内田氏の役目はルノーとの問題解決、及び日産の企業安定化が命題でした。それは無事やったのです。なので次はカリスマ性があり、車の顔になる方が社長になるべきなのです。春ごろに社長交代が発表されてもおかしくないとみています。
自動車業界は大げさに言うなら「未曽有の危機」の入り口にあるとみています。日本国内市場は日系企業に守られており「この状態がずっと続くのだ」という妙な期待感が強いのです。ところが世界ベースで見れば明らかにいろいろな風が吹いています。最後にどの風が市場を押さえるのかわかりませんが、一つ言えることは今の開発思想が既存車の範疇を超えてくるなか、どうみてもEVは廃れず、AIを含むテクノロジーの塊になりそうな点です。先日VWが危機的状況だと申し上げました。その後、発表されたBMWの決算もボロボロ、トヨタ、ホンダ、ステランティスもさえません。一方、低価格EVの波がいよいよ全世界に押し寄せる見込みでクルマの常識観は崩壊、新デファクトスタンダードが生まれる勢いです。
日産の場合、私がカナダで見る限り、ほとんど存在感が無くなり、車の種類すら思い浮かばないのです。ラインアップがSUVの内燃機関のみでHVのオプションがないのはあまりにも厳しいと思います。「値引きの日産」と言われますが、消費者が入り口でEVか、内燃機関か、HVかという大前提の選択をするのでその時点で候補から振り落とされているのです。挙句の果てに私が14年も乗っているGTRにいまだに若者がスマホを向け、「ナイス!」と笑いかけるのにどういう顔をして良いか悩んでしまいます。1999年の二の舞にならなければよいのですが。
2025年、選挙は続く…
私の携帯に世論調査会社からメッセージ。「連邦議会が選挙をするとすればあなたはどの政党に投票しますか?」と。選挙権がない私にもこんなアンケートが来るのかと思いながら信用できる調査機関だったので回答しました。カナダの現与党、自由党の不人気ぶりはすさまじく、トルドー氏がなぜ、そこまでして首相に居座りたいのか、本当に「不思議ちゃん」なのですが、一部政党による与党協力体制が崩壊しているので25年秋の任期満了までは持たないとみています。選挙をすればほぼ100%政権交代で保守系に変わるはずです。
ドイツのシュルツ政権も連立が崩壊しました。3党連立で協力相手から出していた財務長官をクビにしたことで総選挙は間違いない状況にあります。シュルツ政権も不人気で頭を抱えていましたので予断を許さない状態になると思います。方や、日本も面白いことになりそうです。石破氏が首相に指名されそうですが、その後の議会運営は案件ごとの勝負になります。つまり今までは自民党は数の理論で無理な議案でも通せたのです。今後はそうはいきません。ということは政策が停滞することも視野に入れる必要があるし、石破氏が短命なら25年は参議院選に留まらないかもしれません。
最近思うことは人々の要求度が非常に高いことです。そしてその圧力があらゆるところに見えるのです。政治家稼業とは人の上に立ち、「センセー!」と言われ黒塗りの車を乗り回していたのも今は昔、そのうち「あんた」と言われるかもしれません。理由は情報化、そして民主化の発展形において多数決の原理からマイノリティの権利を重視するようになったことにあります。今時51人の意見を採用し、49人には我慢してもらう、なんて言ったら叱られます。ということはモノが決められないということ。よって政治に国民は不満を持ち続け、「あんたさぁ」とストレス発散の対象になるのであります。
後記
いくつかの管理組合が参加するオンライン会議に私も管理組合の責任者の一人として参加しました。議案は3つで初めから大揉めになる内容ばかりで戦々恐々。17人が参加する会議はカオス状態。1時間の予定が3時間。紛糾し続け、運営会社の担当者は完全にGrill(尋問状態)で白人同士のバトルでI’m sorryが連発されたのは初めての経験です。そして会議を仕切る人たちからは「ひろ、お前はどうなんだ」と何度も意見を言わされ久々の緊迫度に終わった瞬間どっと疲れが出ました。日本の紛糾会議も経験していますが、海外のそれは論理と証拠で有無を言わせない強制力すらあり会議における権利主張の強さにおっとりしたカナダでもここまで来たか、と思わせました。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年11月9日の記事より転載させていただきました。