猶予を失った民主主義と日本

アメリカの大統領が、トランプに決まった。

前回の大統領選の後、議会を占拠した暴徒たちの後押しをするような彼の一連の振る舞いは、民主主義の破壊者を体現している。その彼が、民主的に大統領に選ばれた。

ロシアは、現在ウクライナの5分の1を占領している。

ロシアがウクライナを侵略することで始まったこの戦争について、プーチン政権は、西側のロシアへの侵略に対抗する祖国防衛戦争だと主張している。そして、その主張は一定程度ロシア国民に受け入れられている。

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後退する民主主義

私は、2021年の論考で民主主義の再構築を強く訴えた。

日本民主主義再構築論① 挑戦を受けるイデオロギーの世紀

しかし、世界の趨勢はその反対の方向へ大きく舵を切っている。

人々は、「民主主義の再構築」といった「大きな問題」より、「秩序ある生活」に重きをおく。

例えば、グラスノスチが進んで言論・思想・集会・出版・報道などの民主化が行われたエリツィン体制下のロシアでは、同時に食糧不足が発生し、犯罪が激増した。ロシア国民は、端的に言えば「言論の自由より明日のパン」を求めて、KGB出身のプーチンを受け入れた。

アメリカでは、2021年、トランプを打ち負かし民主党のバイデンが大統領となった。

そのバイデン政権下では、国境警備隊が遭遇した不法入国者数が2022年度、23年度の2年連続で200万人を超え、歴史的な高水準となった。

ハーバード大学米国政治研究センター等の有権者を対象としたアンケート調査では、ジョー・バイデン大統領の最大の失策は、「開放的国境政策と歴史的移民流入の多さ」となっており、全体の44%で最大の割合だった。

また、万引き天国と化したサンフランシスコの惨状について、信じられないようなニュースが矢継ぎ早に報道され話題になったのも、この民主党政権下のできごとだった。

本件は、約14万円までの窃盗を「軽犯罪」として矮小化するカリフォルニア州法「修正案47」が主要因と言われている。この州法ができたのは2014年であり、あふれかえる犯罪者の増加による刑務所の囚人人口問題の解消を目的としたものである上、州法の運用案件であることから、一義的にはバイデン政権の失策ではない。

しかし一方で、本件は「行きすぎたポリコレマター」という文脈で取り上げられることが多く、問題が大きく顕在化したのもここ数年のことであったため、「民主党時代の失策」ととらえる認識が広まった。実際、野に下っていたトランプが、万引き犯は射殺すべきだという趣旨の演説をし、「弱腰の民主党と、強い指導力の自分」を誇示したのも、象徴的なできごとであった。

日本の民主主義の今後

翻って、日本である。

我が国はいうまでもなく、少子高齢化による生産年齢人口の減少や、原材料価格の高止まりによる物価高と個人消費の低迷等を原因とする景気後退が慢性化している。

加えて、刑法犯罪の認知件数も2022年から増加し続け、本年も上半期ですでに前年同期比で1万7,550件増加し、35万350件となっている。

外国人の不法在留者数も8万人を超えようとしており、「不法に在留している」つまり、在留を認知できていない外国人による犯罪も、増加の一途をたどっている。

景気の慢性的後退、犯罪発生率の増加、社会不安。それらを一気に解消する魔法の杖は存在しないという閉塞感。「水と安全は無料」といった呑気な標語がまかり通った時代は、すでに終わっている。そして、政治と金の問題による政治不信の蔓延。

私は、21年に書いた論考において、政治を「自分が属す社会に対する納得感を得るための権力装置」と定義した。国、地方を問わず、政治の現場において、その「納得感を得るための前進」があっただろうか。民主主義を深化させる努力が、実っているといえるだろうか。

日本が「民主主義的」な政治体制を崩すことは、当面は考えにくいかもしれない。しかし、このまま「惰性の政治状況」が続けば、国民の政治に対する納得感はさらに低下するだろう。

そんなとき、世界では民主主義の皮を被った「専制化した人物」を国の代表に選ぶことを、私たちはここ20年という時間の中で学んだはずだ。

私たちは、危機意識をもって今を生きなければならない。

政治家としての自戒の意味もこめて、もう時間は残されていない。