大企業に勤めていても副業が推奨される今、起業に興味を持つ人は増えています。そんな中、常に注目されているのが資格の取得。すでに資格を持っている人はもちろん、資格を取って独立したい人や資格に興味がある人に必読のQ&Aを、経営コンサルタントで士業(特定行政書士)でもある横須賀輝尚氏の著書『資格起業バイブル』から、再構成してお届けします。
六畳一間でも1,000万円を稼ぐことはできた
Q:オフィスがないと顧客の信頼は得られないと聞きましたが、無理して持つべきでしょうか?
何年も事務所を経営している先輩士業から「事務所くらい持たないと、お客様に信頼されないよ」といわれました。開業資金的には、最初から事務所を借りることはかなり厳しい状況です。こういった状況でも、独立した事務所を借りるべきでしょうか?
独立した事務所を持つことは成功の絶対要件ではありません。私がまさにそれを証明しています。
2003年5月に晴れて行政書士登録が完了した私は、その頃住んでいた東京都調布市の六畳一間の木造アパートで行政書士事務所を始めました。開業資金は40万円ほどでしたから、もちろん独立した事務所を借りることの検討すらできませんでした。いわゆる「自宅兼事務所」というスタイルです。この方法でも最終的に年商1,000万円程度は十分達成できました。また、初めて本を出したときもこのアパートが執筆場所となりました。
創業時のオフィスについては2つの意見があります。
ひとつは「最初から無駄なランニングコストが出ていくことは避けるべき」というコスト意識派のもの。
そしてもうひとつは「最初からオフィスを持ち、顧客の信用を得るべき。スペースの法則によって、必ず空いたスペース分の売上はつくれるようになる」というビジネス成長派のものです。
どちらも正論であり、間違ってはいません。しかし、これは自分自身でどちらの意見を採用するか、自分の力量と相談しながら考えないと、大失敗につながります。
なぜなら、後者の意見を採用して成功できる人は、ある程度営業が理解できていて、今日すべきことがいつもわかっている人向きの考え方だからです。言い換えれば、努力すべき行為が決まっていて、売上を伸ばすためにしなければならないことがわかっているという人であれば、最初からオフィスを借りてよい意味で自分に心理的プレッシャーをかけて、短期間で成功するという選択もよいでしょう。
しかし、営業があまり得意ではない人に後者の意見を勧めることはできません。売上が伸びず、固定費に押しつぶされて廃業してしまう可能性があるからです。
初めて独立開業するなら、自宅兼事務所で十分です。朝起きてすぐ仕事に取りかかれますし、時間効率もとてもよいものです。事務所を借りるタイミングは、人を採用するようになってからでも間に合います。
私も独立開業して3年が経とうとしていた頃、スタッフを採用することになってから初めてオフィスを借りました。何も焦ることはないのです。
独立事務所を持つということは、あくまでも付加要素
自宅兼事務所の場合、多くの人が気にする点は2つあります。
ひとつは打ち合わせの場所です。
「事務所で打ち合わせをさせてください」といわれても、打ち合わせをするスペースがないのですから、やりようがありません。この場合は「ご足労いただくのは恐縮です。御社に伺わせていただきます」と伝えて、お客様の会社に出向いてしまいましょう。私は常にこの方法でお客様の会社やご自宅に伺っていました。
この方法は「偉そうでない」「フットワークが軽い」として非常に印象もよいものです。ぜひ採用してみてください。
もうひとつ気になる点としては、お客様に「自宅兼事務所なのですか?」と聞かれたら、どう答えてよいかわからないというものです。
たしかに「まだ売上がないので、しょうがなく自宅で仕事をしているんです」というのは信頼を失う可能性があり答えにくいといえます。しかし、合理的な理由があれば、人は納得するのです。具体的には「人を採用していないので、今は自宅で十分なんです。事務所に来ていただくのも申し訳ないですし、伺うことが多いですから、独立事務所は必要ないですね」というような形で回答します。
ズバリこれは私が使っていた回答なのですが、「若いのにしっかりとした考え方を持っている」といっていただけることが多く、結果として自宅兼事務所であることを褒められることが多かったように思います。ポイントは、経営者として無駄な経費を使いたくないということと「欲しいけど手に入らない」のではなく、あえて「不要である」と堂々とした態度を取ることです。
お客様は自宅兼事務所か独立事務所かの違いを見ているのではなく、あなたが信頼に足りる人かどうかを見ているだけです。あくまで事務所はプラスアルファの要素です。もちろん、最終的に事務所を拡大したいという気持ちがあれば、いつかは事務所を持ちましょう。ただ、最初から自信もないのに無理をする必要はないのです。
来客も少ない創業期に「無理」はしても「見栄」を張る必要はない
特に男性に多いのが、「事務所くらい見栄えがよくなければ」という、どちらかといえば見栄に関する感情です。たしかに立派な事務所を持てればそれに越したことはありませんが、単なる所長の見栄のために事務所の経営が傾いたのでは、働いているスタッフにとってはたまったものではありません。
業務拡大のために少し無理をして事務所を構えよう、というのであれば私も応援できますが、単なる見栄で「事務所くらい持たないと」といってお金がなくなってしまうのではアドバイスもできません。「まずは事務所を引き上げましょう」というのが最初の進言になってしまいます。このように、お金のかけどころは採算が取れるもの、あるいはその必要があるものから進めていきたいものです。
ところで、もし事務所を借りることが現実味を帯びる段階になってきた場合には、まずは具体的に物件を見に行きましょう。そして、正確にかかる金額を調べます。こうすることによって、必要な保証金など独立事務所にかかわる金額がわかります。金額が把握できれば、やるべきことや増やすべき売上がわかってくるので、独立事務所は現実のものになりやすくなります。
なお、最近ではオフィス物件だけでなくレンタルオフィスと呼ばれる簡易オフィスも増えています。こうしたレンタルオフィスは比較的初期費用が抑えられるのでお勧めです。実は私の最初の独立事務所も、このレンタルオフィスから始まりました。
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横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年9月11日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。