独で「早期の総選挙実施」の声高まる

ドイツで6日夜(現地時間)、自由民主党(FDP)がショルツ連立政権から離脱したことで少数派政権となったことを受け、ショルツ首相(社会民主党=SPD)は来年1月15日に自身の信任案を提出し、それが否決されることを受けて連邦議会を解散し、3月に前倒しの選挙を実施したい意向を表明してきた。それに対し、野党第1党の「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)は「年内に信任案を議会に提出し、出来るだけ早い時期に選挙を行うべきだ」と主張。野党に下野したFDPに加え、ショルツ政権に留まっている「緑の党」もここにきて早期選挙の実施に賛同してきた。ドイツ民間ニュース専門局ntvが実施した電話世論調査によると、6割以上の国民が早期総選挙の実施を願っている。

早期総選挙の実施を要求する「キリスト教民主同盟」(CDU)のメルツ党首(CDU公式サイトから)

早期議会選挙を求める声の高まりを受け、ショルツ首相は10日、公共放送ARDとのインタビューで、「クリスマス前に信任投票を行うことに全く問題はない。それにはSPDの議会院内総務ロルフ・ミュッ氏ェニヒ氏と、野党指導者フリードリヒ・メルツ氏(CDU)が日程で合意することが条件だ。両者が一致すればそれに従う」と強調した。そして、「私は自分のポスト(首相)に固執していない」と述べたが、再選には意欲を示した。

ショルツ首相が選挙の日程では野党側の意向を受け入れる姿勢を示した背景には、2025年連邦予算案など重要法案を成立させるためには野党側の協力がないと難しいからだ。メルツ党首はショルツ首相との会談で「早期の信任案の提出と連邦予算案の採決での協力」でやり取りがあったという。ちなみに、ドイツでは、首相を解任するには、絶対多数で後任が選出されるか、現職の首相が自ら信任投票を行いそれに敗北する必要がある。この方法が早期の選挙に持ち込む唯一の方法だ。連邦議会には自己解散の権限がない。

なお、ショルツ首相はインタビューの中で、首相自身が社会民主党、緑の党、自由民主党3党から成る連立政権の崩壊を意図的に誘導したという批判に対し、「私は何も挑発していない。3党連立を維持するために最後まで努力したが、最終的には不可能だった。私は妥協と協力のために嫌な顔もせずに取り組んできた。しかし終わる時が来たなら、終わらせるべきだ」と説明している。

ところで、ドイツの今後の政治日程では対外的には少々問題が生じる。来年1月20日には米国で当選したトランプ氏が第47代米大統領に就任し、第2期トランプ政権がスタートする。その時、「欧州の盟主」ドイツでは少数派のショルツ政権が継続されていれば、トランプ新政権はショルツ少数派政権を交渉相手としないだろう。また、ドイツは欧米諸国のウクライナ支援では米国について2番目に多い。ドイツで少数派政権が続ければ、欧米主要国は重要な議題をドイツと議論できない。

ショルツ首相が主張するように来年3月に選挙が実施されたとすれば、新政権が発足するまで少なくとも2カ月余りかかる。とすると、米国や他の欧州主要国と重要な問題を話し合える新政権がドイツで発足するのは早くても来年5月頃だ。残念ながら、ウクライナ情勢、そして中東問題はドイツで新政権ができるまで待っていないだろう。ドイツは「欧州の盟主」としてその役割を果たすためには来年早々に新政権を発足させなければならない、という判断が生まれてくる。

連邦および州の選挙管理当局は11日、早期連邦議会選挙に向けた準備に入る。連邦選挙管理官ルート・ブランド氏はショルツ首相宛ての書簡で、短期間の準備に伴う「予測不能なリスク」を警告している。

CDUのメルツ党首は独週刊誌「シュテルン」で、「信任投票が実施されるまではSPDが望む法案の審議には応じない。ショルツ首相の13日の政府声明が良い機会となる」と述べている。ショルツ首相がメルツ党首の提案を受け入れ、クリスマス前に自身の信任案を提出し、連邦議会を解散し、来年1月中旬には総選挙を実施したとしても、新政権発足は来年3月頃だ。明確な点は、ドイツの与野党の政治家たちは今年はクリスマス・シーズンを家族と共にエンジョイすることは出来ないことだ。

参考までに、10月29日時点でのntvの世論調査結果によると、CDU/CSUは32%(1ポイント増)、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は17%、SPD16%、「緑の党」9%(1ポイント減)、左翼党から離脱して結成した新党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟」(BSW)は7%、FDP4%(1ポイント増)、左翼党3%となっている。現在のショルツ連立政権はSPDの16%と「緑の党」の9%を合わせて25%だから、その支持率は国民全体の4分の1に過ぎない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年11月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。