生きがいとして考えたいシニア起業

日経に「定年後の『1人起業』広がる 低リスクが成功の秘訣」とあります。記事の中で取り上げられた元商社マン氏は63歳で定年退職し、起業、現在起業10年目で売り上げ1億円、利益で得られる収入は年間100万円とあります。「小遣い稼ぎ程度の年収だけど、もともと個人で責任を負える範囲で商売するつもりだった」と満足している、とあります。

売り上げ1億円で収益100万円では利益率は1%、普通では商売として成り立たないレベルです。が、この元商社マン氏は自分の経験を生かしたビジネスができることに喜びを感じ、一種の定年後の「現役延長戦」に臨んでいるのだろうと考えています。

Yuto photographer/iStock

ここまで割り切って考えることができる人は実はそう多くないだろうと思います。なぜなら起業することでその忙しさ以上に事業者としての責任を負っているからです。

事業は基本的に永続性の原則があります。期間限定の場合はパートナーシップ形態などでそれを当初から謳っているケースが多くなります。それでも多くのシニア起業家は株式会社形式にされると思います。理由は取引相手が会社形式ではないと嫌がるからです。ところが株式会社とは永続性があるわけで定点退職後、お気楽勝負で数年間ビジネスできたらいい、ぐらいだと違和感が出てきてしまうのです。

私の周りでもシニア起業をされた方は何人もいますが、正直、数年以上続いている人は10人に1人いるかどうかです。なぜならビジネスがさほど簡単ではないことは自分で事業を立ち上げないとわからないからです。

だいぶ前にこのブログで日本の名刺は社名、肩書、そして個人名がある、と申し上げました。つまり名刺を渡す相手に対して自分の所属している会社名と私の責務(ポジション)を見てもらい、個人名である山田太郎は二の次という扱いなのです。

ところが多くの日本で定年間近の方は「おれは〇〇をやって来た」という強い自負を持っています。どの程度実務をされたのか、プロジェクトのリーダー的存在だったのか、ここは本人しかわからない話であります。

ところで北米の名刺の並びは真逆で氏名、卒業時の学位取得レベル(MBAとか博士など)、職名(タイトル)、企業名であり、あくまでもその個人が主体です。日本では初対面の時、何が何でも名刺交換が第一優先ですが、当地は気に入った相手にしか名刺を渡しません。ミーティングの後、連絡先は?ときけば携帯でいいか、ぐらいのものです。

そういう私も頂く名刺はしばらく机の上に放置して、大事そうな名刺だけ名刺ホールダーに入れます。名刺ホールダーに収まっている名刺も年に一度ぐらい全部チェックし、やり取りがない方の名刺は破棄しています。用があればまた新しい名刺をもらえばよいだけの話です。

私が日本で事業をする際、やりにくいと思うのは新参者を嫌う傾向が強いことです。特にBtoBを目指す場合、要注意です。私はほとんどがBtoCかカナダ向け輸出業者としての買い付け事業ですので展開しやすいですが、顧客の要望は本当にレベルが高く、その傾向はますます強化されています。

その中でシニアができる起業はどうしてもコンサルのような経験値を生かしたものになると思います。海外経験などは生かせると思いますが、20年前に一度赴任したことがあるぐらいで「私は経験者」と言うのには無理があります。

プロ並みのレベルになるにはサラリーマン時代によほど実務に長けていた方ではないと難しいと思います。特に日本の仕事のやり方は大きな企業だと年長になれば部下の管理と上からの方針の具現化が主体で実務は全くやらない方がほとんどだと思います。その方が突然コンサル=実務の塊のようなことができるのか、それは起業を目指す方はよーく考えたほうが良いと思います。

また形から入る方も多くいらっしゃいます。何もビジネスを始めていないのに事務所は港区の住所でこんなオフィスで、から始まる方は割と多いものです。そしてたいていそんな方は1-2年で事業をたたむことになります。

オフィスなんて自宅でよいのです。起業は住所とパソコンがあればできます。形は売り上げが立ち、利益が出てから考えればよいのです。今はシェアオフィスも多く、ワンルームマンションを借りる必要はないのですが、どうもプライドが許さないのか、自分のデンとした社長のテーブルと椅子が欲しいのか、定年後のおじさまはシェアオフィスはお嫌いのようです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年11月17日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。