今年最後の「スーパームーン」の話

16日夜、トイレに行こうと目を覚ました。居間の電気にスイッチを押そうとしたが、部屋がいやに明るいのに気が付いた。ウィーンの夜空には俗に「スーパームーン」と言われる満月が輝いていたからだ。17日早朝5時半、ごみ捨てと新聞取りで外に出た時、幸い、雲一つもない夜明け前の空にまだその輝きと大きさを失っていない「スーパームーン」を見つけた。月面のクレーターも地上から良く見える。

スーパームーン(2023年8月2日早朝、ウィーンで撮影)

ウィーンでは今年10月17日も「スーパームーン」が観測された。その時も居間のカーテン越に「スーパームーン」を観た。今回は今年最後の「スーパームーン」という。「スーパームーン」は、天文学ではペリジー・ムーンとも呼ばれ、通常の満月と比べて約17%大きく、15%明るく見えるという。

月は地球から距離40万6000キロメートルから35万6000キロメートルの間を変動しているが、「スーパームーン」とは、月が満月となるタイミングで地球に最接近(近地点=ペリジウム)した状態を指す。その反対は、月が地球から最も遠い状態(遠地点=アポジウム)で、「ミニムーン」と呼ばれる。「スーパームーン」は、「ミニムーン」と比べると約14%大きく、30%明るく見えるという。

ちなみに、10月の「スーパーム―ン」の満月は「ハンタームーン(狩猟月)」とも呼ばれる。これは「ハーベストムーン(収穫月)」の後に訪れる最初の満月だ。昔の農民たちは、収穫を終えた後、この月明かりを利用して狩猟に出かけたことからそう呼ばれたという。

「スーパームーン」を見ながら、米国のアポロ11号が1969年7月20日、人類史上初めて月面着陸したことを思い出した。その快挙から今年で55年が過ぎた。中国は今年6月、無人の月面探査機を月の裏側へ着陸させることに成功したという。宇宙大国の米露を先頭に、中国、インド、そして日本や欧州連合(EU)が宇宙開発に再び力を入れ出している。

月面に降り立ったニール・アームストロング船長の「人間にとっては小さな一歩だが、人類には偉大な飛躍だ」という名言を思い出す。大きくて神秘的な「スーパームーン」に向かって、「最近は多くの訪問者を迎えて、君も急がしいだろう」と語りかけてみた(「ウィーンから観た『スーパームーン』」2023年8月3日参考)。

「スーパームーン」に関わる心温まる話が世界各地で伝承されているが、中国では、月は家族の団らんや再会の象徴とされている。特に中秋節には月を見ながら家族が集まり、月餅を分け合う。「スーパームーン」の夜、遠く離れて暮らしている家族が同じ月を見上げていると考えることで、距離を超えて心がつながると信じられている。ある老人が「スーパームーン」の夜、息子に電話をかけてこう言った。「今、月を見ているかい?私たちが同じ月を見ている限り、どんなに遠くても君はいつも私のそばにいるんだよ」。また、ネイティブアメリカンの部族の中には、月を大切にする文化がある。彼らは「スーパームーン」を「母なる月が地球を見守る時」と捉え、特別な祈りを捧げる。ある伝説によれば、「スーパームーン」の夜には亡くなった愛する人々の声が月明かりを通して届くといわれている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年11月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。