ウクライナの戦いが始まり1000日を超えてきました。世界の歴史の中には長期の戦いはいくつもありますが、現代において2年半を超える地上戦を含む戦争は体力的に厳しいと思います。日本が第二次大戦で厳しい敗戦となった理由は数多くありますが、その1つに長引いた戦争期間は無視できないでしょう。長引くと国家は疲弊し、兵士の士気も下がります。兵士の高いストレスを発散させる仕組みや対処、オプションがあるようにもみえません。つまりとことん戦い抜くだけであります。これはきついでしょう。(ロシア側も同じですが。)
第三者的観点からゼレンスキー大統領の現状の施策が正しいかといえば私は思いません。これは戦争初期からほぼ一貫した意見です。戦争は兵力、体力、知力、財力、友好国を含む味方の取り込み勝負だと思いますが、ロシアと対峙できると考えにくかったことは多くの方が口には出さねどもそう思っていたのではないでしょうか?
特にかつての戦争のように複数国が共同戦線を張り、自国の兵士を戦地に送り込み、兵士の消耗戦もできた時代ならともかく、北朝鮮のような一部の国家を除き、今時国家の首長が「〇国と我が国は一蓮托生だ。その〇国が今、危機に陥っている。我々の兵力をもって支援をしようじゃないか」という発想はほぼタブーに近いでしょう。事実、プーチン氏の最大の理解者の一人とされるベラルーシのルカシェンコ氏に派兵をお願いしたことは一度もないのです。10月24日付のBBCは記者がルカシェンコ氏に直接インタビューしているのですが、その中でプーチン氏から派兵を要請されたかの質問に対して「まったくない。彼も、セルゲイ ショイグ(元国防相)も、今の国防大臣のアンドレイ ベロウソフも、そのようなことは一度も持ち掛けてきていない」と明白に述べています。
現代における戦争は近代兵器による戦いが主流でそれを補完するように地上戦が行われる流れかもしれません。ウクライナはただでさえ人口が激減しており、適齢の兵士も不足する中、アメリカから長距離砲をロシア領土にむけて攻撃する許可をついに得てしまいました。私が想像するバイデン氏の計算は「トランプ氏が25年1月に大統領に就任すればアメリカからの軍事支援は止まる可能性が高い。とすればウクライナは何らかの形で停戦、休戦、終戦に向けた交渉を行わねばならない。その際、その時の陣地形成が交渉の基準になると考えればトランプ氏が就任するまでの残された2か月でロシア側にダメージを与え、ウクライナに有利になるよう仕向ける為にもここは今までこらえてきた禁断の判断をすべきだろう」と。
当然、この判断には批判が集まります。一番わかりやすいのは「なんで今頃?」「そうするならもっと早くすべきだった」であります。アメリカ民主党政権は外交のグリップが甘いとされ、今回もこんな間際にヤケクソ気味に長距離砲による打撃を許可したわけです。
さて、トランプ氏はどんな停戦工作をするのでしょうか?私が考える基本の発想としては①一定幅の国境沿いの非武装地帯創設 ②ウクライナ東部の割譲 ③ウクライナのNATO加盟申請の留保 ④戦争責任の回避が俎上に上がると思います。その場合において和平交渉を2段階にし、第1弾で基本交渉内容の合意と暫定的停戦、次いでゼレンスキー氏の大統領からの辞任と新大統領選定、及び新政権による詳細条件交渉とするのが私の描くシナリオです。私の中にゼレンスキー氏とプーチン氏が交渉の矢面に立つシナリオは頭の中で描けないです。
ただプーチン氏がトランプ氏の和平工作に乗るかどうかも五分五分だとみています。(ブルームバーグが本日、和平交渉の可能性を示唆するニュースを流していますが、信ぴょう性は疑問とされます。)プーチン氏が一筋縄でいかない理由はトランプ氏の手腕は前回の大統領就任時とは違うことを見透かしているからであり、NATOとトランプ氏の距離感など西側陣営が一枚岩になれるのか揺さぶりをかけてくるとみています。プーチン氏は急ぐ必要はなく、また北朝鮮兵が参戦していること、更にこれから冬になるにあたり、ウクライナへの進軍がしやすくなることがプーチン氏が有利になると考えられます。
現在の国家首脳陣をみてプーチン氏に強い影響力を持って停戦交渉ができる人は確かにトランプ氏しか見当たりません。習近平氏はのらりくらり、インドのモディ氏は自国の利益しか考えていません。トルコの仲介力は十分ではなく、欧州にはキーパーソン不在の状態です。
その点からすればトランプ氏の和平交渉の期待は高く、その成果が逆にトランプ政権の今後の4年間を占うとも言えるかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年11月21日の記事より転載させていただきました。