イランは10月1日、イスラエルが9月27日、イランが軍事支援するレバノンのシーア派武装勢力「ヒズボラ」の最高指導者ナスララ師を殺害した報復として約180発の弾道ミサイルをイスラエルに向けて発射した。イスラエル側の発表では、「大部分はイスラエル側の対空防衛システムで撃ち落とされたので、大きな損害は出ていない」という。イスラエルは10月26日、イランに報復攻撃をしたが、イスラエル側の発表では、3基のS-300地対空ミサイルシステムが破壊され、その結果、イランはロシア製のこの防空システムを失った。また、ロケット用固体燃料の部品製造施設が破壊されたといわれてきたが、ネタニヤフ首相はイスラエル議会で、「イランの核プログラムに関連する特定の構成要素への攻撃に成功した」ことを初めて明らかにした。すなわち、イスラエル軍は先月末のイラン攻撃で核関連施設を攻撃していたわけだ(「イスラエル軍の標的はイラン核施設だ」2024年10月3日参考)。
ネタニヤフ首相は議会で、「10月末に行ったイランへの攻撃で、テヘランの核プログラムの特定の構成要素を標的にした。これは秘密ではない」と述べる一方、「イランの核プログラムそのものやその運用能力はまだ無力化されていない」と付け加えた。アメリカのニュースサイト「Axios」は15日、アメリカとイスラエルの匿名の関係者の話として、「10月26日の攻撃でパルチンにある秘密の核兵器研究施設が破壊された」と報じている。
パルチン(Parchin)は、イランの首都テヘランの南東約30キロメートルに位置する軍事施設で、核兵器や弾道ミサイルの開発と関連がある可能性が指摘されてきた。この施設は、国際原子力機関(IAEA)や西側諸国から核兵器の研究や開発が行われている疑いが持たれてきた。
IAEAは過去、パルチン施設に関する調査を行ったことがあるが、アクセスが制限され、これまで完全な監視が行われていない。イラン政府は核兵器の開発を否定しており、これらの施設が平和的な目的で使用されていると主張してきた。
ネタニヤフ首相の発言に注目される点は、「イランの核プログラムそのものやその運用能力はまだ無力化されていない」という箇所だ。「核プログラム」とは、イランが進める核燃料の濃縮活動や関連インフラを指すものと受け取れる。特に、ナタンツ(Natanz)やフォルドウ(Fordow)といった主要なウラン濃縮施設での活動だ。これらの施設では、ウランを核兵器に必要な高濃度(90%以上)へ濃縮できる可能性が指摘されてきた。イランは現在、ウランを60%まで濃縮しており、これは核爆弾に近いレベルに到達する前段階だ。ちなみに、原子力発電所用の濃縮ウランは3.7%だ。IAEAによると、イランは非核保有国としては唯一、濃縮度60%のウランを保有している。
次に、「運用能力」とは、核兵器を実際に使用可能な形で配備する能力、つまり核弾頭の製造と、それを搭載する弾道ミサイルの開発を意味するはずだ。イランは過去に弾道ミサイルの開発を加速させており、国際社会では、この技術が核兵器の運搬手段として利用される懸念が高まっている。また、固体燃料ロケット部品の製造施設がイスラエルの攻撃対象となったことも、こうした懸念の一部を反映していると考えられる。
ネタニヤフ首相が「まだ無力化されていない」と述べたことは、これらの二つの側面――核燃料の濃縮プロセスの維持と、核兵器運用のための兵器システム開発――が依然として続いていることを意味するはずだ。すなわち、10月26日のパルチン施設への攻撃はイラン核計画の無力化への第一歩といえるわけだ。
イランは2015年、米国、中国、ロシア、フランス、英国、ドイツと、イランの核プログラムを制限する核合意を締結した。しかし、米国は2018年、当時のドナルド・トランプ大統領の下でこの合意を破棄し、イランに対する制裁を再導入した。それに対抗する形で、イランは合意の義務を果たすことを止め、核関連活動を継続してきた経緯がある。今年7月に就任したイランのペセシュキアン大統領は、核合意の復活を支持し、イランの孤立状態を終わらせることを願っているといわれるが、トランプ氏のホワイトハウス復帰が、イランと米国の間の緊張をさらに高める可能性が出てきた。
なお、テヘランを訪問して帰国したIAEAのグロッシ事務局長は19日、「イラン当局は高濃縮度ウランの生産に自主規制をする準備に入っている」と語った。IAEAによると、イランはここ数カ月で、核兵器に適した純度約60%のウラン在庫を約18キログラム増やし、約182キログラムにした。今回のイランの対応(濃縮活動の制限)については、「イスラエルがイラン国内の核施設を破壊したことと関連しているのではないか」といった推測が聞かれる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年11月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。