ReHacQは「一流のメディア」になるために何をすべきか

ReHacQ(リハック)というネット世代に人気があるらしいYouTubeのチャンネルに、国際政治学者の東野篤子氏が出演し、話題になっている。

最近のメディア出演動画および関連記事、7本まとめて一気にご紹介|東野篤子
…いきなり、自虐的な(?)見出し画像にしてしまいましたが、 ここしばらくメディア出演が続き、しかしその告知がぎりぎりになったり間に合わなかったりということも多かったので、ここでまとめてご紹介しようと思ったのでした。 ① 11月12日 NHK総合キャッチ!世界のトップニュース モルドバやジョージア、エストニアなどの諸...

ヘッダーは、彼女が「自分はネットで叩かれる」旨を繰り返す箇所の一部だが、カタカナでセンモンカと書く人は私の知るかぎり私しかいないので、「ウクライナ論壇」に批判的な拙noteもお読みいただいているのだろう。メディア上での第一人者に批判が届いているなら、光栄なことである。

このReHacQの番組(11月26日配信)に対して、東野氏からネットリンチの被害に遭った羽藤由美氏は、当然ながら怒っている。

11月27日

私も通して見てみたが、前半は文春がすでに報じた「茨城県警の元警部がTwitterで中傷」の後追いで、新味はなかった。さすがに東野氏が「中傷の当時はオーストラリアにいた」(=その時点で安全面の不安はなかった)点を認めていたのと、相手の職業を知った手法について、若干の仄めかしがあったことくらいか。

東野篤子氏が誹謗中傷問題について「語っていない」こと|Yonaha Jun
率直に言って、私の主たるテーマではなく、もうあまり関わりたくないのだが、インターネットで流布する言論が粗雑にすぎるので、手短に。 11月5日に、文春オンラインが「東野篤子氏をX上で中傷した警察官が、略式起訴され罰金刑になった」旨で、以下の記事を出した。ヘッダー写真のとおり「Webオリジナル」の表記があり、書類送検時に...

むしろ、目をみはったのはインタビューの後半だ。具体的には 26:20 あたりからだが、いちばん気になった箇所を文字起こししておこう。

東野篤子(26:42から)
いまXの検索で「東野篤子」って検索していただいたら、2、3のアカウントがずーっと私の中傷をしてるんですね。……Xで「東野篤子」って〔検索を〕やってご覧になられたらですね、結構その、おそらく1人の人が運用していると思われる、「東野篤子はこんなことを言っていた」「東野篤子はここが変だ」みたいな感じでずーっと書いてる人がいるんですけれども、これ開示請求にはならないんですよね。

ただ、やられてる本人としては、1時間に1ぺんこういうのが出てくる状態、誰かが私のことをずーっと中傷を込めて書き込んでいる状態というのは、大変やはり恐ろしいですし、神経も削られます。

強調は引用者

いやいや、あたりまえじゃない?

ウクライナ戦争のように多数の人命がかかっていて、かつ何が正解かわからない話題の「専門家」として毎日TVに出ていたら、「この人、いっつもメディアで見るけど、主張がオカシイ!」みたいに批判する視聴者も出るでしょう。大事なのは、その批判の中身が妥当かどうかじゃないの?

具体的には、「東野篤子はこんなことを言っていた」と書かれたが、そんな発言はしていないという場合は、もちろん中傷にあたる。おそらく、開示請求をすれば通るだろう。逆に「いや実際、あなたはそう発言しましたよね」ということなら、請求は通らないし、また通してはならない。

たとえば2022年9月のノルドストリーム爆破について、東野氏が「犯人はロシアだ」と間違ったことを言っていたと指摘するのは、中傷ではない。指摘が続くのが嫌なら、本人が謝罪・訂正すればよいことで、スラップ訴訟やまして公権力の規制を持ち出すのは、思考が根本的におかしい。

戦時に誤りを発信した専門家に「軍法会議」はないのか|Yonaha Jun
8月15日の終戦記念日にあわせて、前回の記事を書いた。実際には兵站が破綻しているのに「あるふり」で自国の戦争を続けさせたかつての軍人たちと、本当は(信頼に足る)情報なんて入ってないのに「あるふり」で他国の戦争を煽り続ける専門家たちは、同類だというのが論旨である。 とはいえまさか、ここまで即座に「そのもの」の事例が飛...

批判を続ける複数のアカウントについて、「おそらく1人の人が運用している」と決め込むのも、理解不能だ。東野氏自身が言うように、開示請求しても通らないのだから、「これらのアカウントはみな1人がやっている」と断定する根拠は何もない。

TVの常連でも芸能ゴシップの専門家なら、多少は「どうせ、こんなオチじゃないですかぁ?」と憶測で喋っても大目に見られるかもしれないが、現実の戦況を分析する第一人者のように扱われてきたセンモンカが、こうしたエビデンス・レスな妄想で物を言う人だったとは戦慄する。

先ほどの引用でも「中傷を込めて」と東野氏が述べているとおり、東野氏は中傷という言葉の定義が、ふつうの人と違っている。メディアで自分が実際に行った発言の問題性を指摘されるのは、批判(聞き手の高橋弘樹氏の用語では「批評」)であっても中傷ではない。

彼女自身のツイートから察するかぎり、東野氏は中傷の語義を「私に抱いた悪い印象を言葉にすること」と、と取り違えているようだ。

有識者を批判するならその発言の内容に対してすべきで、容姿や性別を攻撃の対象にするのは違う、とする指摘にまで「そうすることで私の悪口を長く言いたいんだろう!」と絡む人の神経は、ふつうではない。そうした人が用いる「中傷」という言葉の定義は、かなり独特なものになっているので、起用するメディアは精査すべきだ。

中傷と同じく「差別」も、むろんあってはいけないものだが、しかし独自な定義で「差別」を勝手に認定することを認めれば、穏当な常識に沿った意見の表明まで差別にされてしまう。そうした問題がいま起きているのと、東野氏のふるまいは、まさにパラレルな関係にある。

オープンレター秘録① それはトランスジェンダー戦争の序曲だった|Yonaha Jun
日本文藝家協会に入っているのだが、会報(文藝家協会ニュース)の10月号に、小説家の笙野頼子さんがコラムを寄せていた。タイトルは「続・女性文学は発禁文学なのか?」。 「続」とあるのは、2021年の11月にも、笙野氏は同じテーマで寄稿しているからだ。「発禁文学」とは、同氏がトランスジェンダリズムに反対した結果、文壇でキャ...

国際政治学でいえば、ガザで行われている民間人への空爆を批判することが、ユダヤ人への「差別」にあたるとする、独自の用語法を持つ国がある。その国の言い分を「差別された当事者だから」として、一方的に垂れ流すメディアがあるなら、単なるプロパガンダにすぎず、一流とは呼べない。

さて東野氏による、辞書の定義どおりの「ネットリンチ」の被害に遭った羽藤由美氏は、ReHacQのアカウントに宛ててこう提言している。同社が「TVで有名になった人」を連れてきて、長く喋らせるだけではない、真にオルタナティブなメディアに成長する上でも、優れた機会となろう。

11月27日
事件の仔細は羽藤氏のブログ

今回のゲストだった東野氏自身、以下のようにTwitterで発言していたのだから、ReHacQが論敵に出演・反論の機会を与えたからといって、悪く思うことはないはずだ。SNSでの誹謗中傷がやまない時代を終わらせるために、ぜひそうした価値ある番組を、ReHacQには期待したいと思う。

参考記事:

東野篤子氏と「ウクライナ応援ブーム」は何に敗れ去るのか|Yonaha Jun
東野篤子氏とその周囲によるネットリンチの被害者だった羽藤由美氏が、経緯を克明にブログで公表された。1回目から通読してほしいが、東野氏の出た番組に批判的な感想を呟いただけで、同氏に煽られた無数の面々から事実をねじ曲げて誹謗される様子(3回目)は、私自身も同じ動画を批判したことがあるだけに、血の凍る思いがする。 東...
なぜ、学問を修めた「意識の高い人」がネットリンチに加わってしまうのか|Yonaha Jun
8月27日付で、筑波大学は所属する東野篤子教授のTwitter利用に関し、「コンプライアンス違反に該当するような事項は確認することができませんでした」(原文ママ)との回答を、ネットリンチによる被害を訴えていた羽藤由美氏に送付した。 知と理は死んだ 筑波大学の汚点 筑波大学のコンプライアンスは死んでいると言わ...

編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2024年11月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。