パリに12軒ある、”パラス”と呼ばれる最高級ホテル。いずれも、ロビーや客室のしつらえはもちろん、レストランやバー、スパ施設も充実しており、その空間に身を置くだけで、外の喧騒とは無縁の居心地のよさがある。館内の施設の中でもとりわけ、それぞれのホテルの魂的存在なのが、バーだ。
セーヌ川を挟んで南側、”パリ左岸”と呼ばれるエリアで唯一のパラス、「ルテシア・パリ」。1910年、ベル・エポック華やかなりし時代に誕生した豪華ホテルだ。
アール・ヌーヴォーとアール・デコ、二つの様式美が溶け合った優美な建物。誕生から100年以上の時を経て、2014年から4年間かけてリニューアル工事が行われ、フランスを代表するデザイナー、ジャン=ミシェル・ウィルモットにより、伝統を大切にしつつコンテンポラリーな美しさも兼ね備えたホテルに進化し、世界中からパリにやってくる多くの人々で常に賑わっている。
そんな「ルテシア・パリ」には、2つの魅力的なバーがある。「バー・ジョゼフィーヌ」と、「バー・アリスティド」だ。
「バー・ジョゼフィーヌ」は、エントランス近くにある広々とした華やかな空間。高い天井は創業当時のフレスコ画に彩られ、中央の大きなカウンターが印象的だ。
ホテルがある通りからもバーの様子が少し見え、くつろぎのひとときを求めて集う人々の楽しげな喧騒や生演奏のピアノのメロディが、夜毎、外まで漏れ聞こえ、思わず中に入りたい気持ちにさせられる。名前の由来は、このホテルを愛した歌姫であり女優でもあった、ジョセフィン・ベーカー。名前の通り、華々しく享楽的な雰囲気に包まれた、輝くようなバーだ。
対する「バー・アリスティド」は、スピークイージーな雰囲気満載の、隠れ家的バー。ホテルロビー奥の細い階段を登ったところにある小さな空間だ。重厚なソファを中心に書斎風のしつらえで、いくつかの小さなテーブルと、こぶりのバーカウンター。窓からは、ホテルのオールデイダイニング「ル・サンジェルマン」の様子を見下ろせる。
こちらの名前の由来は、ホテルそばにあるパリ最古の百貨店「オ・ボン・マルシェ」の創業者、アリスティド・ブシコー。「ルテシア・パリ」は、「オ・ボン・マルシェ」にやってくる地方在住の富裕層客の宿泊施設として誕生したのだ。
「バー・ジョゼフィーヌ」が華やかで女性的な空間であるならば、「バー・アリスティド」は、落ち着いた男性的な空間。そしてスペシャリテ・カクテルも、それぞれの雰囲気に合ったものが多い。
ジョゼフィーヌでは、ラムに桜の花びらやパイナップル、マンゴーを香らせた”Vita Lenta”や、ウォトカにグレープジュースやジャスミンティー、ココナッツにライチを重ねた”Paris, un soir d’été”などはいかが?
アリスティドでは、ウィスキーに生姜や蜂蜜を混ぜた”Penicillin”や、ジンにヴェルモットやシャルトルーズ、オレンジビターを組み合わせた”Bijou”などがおすすめだ。
タパス系料理も充実しているので、軽いディナーの場所としても利用しやすい。その日の気分や同行者によって、どちらかのバーを選ぶもよし、ハシゴして両空間の魅力に浸るもよし。パリのラグジュアリーホテルならではの素敵なバータイムを過ごせる。
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