ブルガリアの議会選(10月27日実施)でもそうだったが、ルーマニアで1日、実施された議会選挙(定数上院136、下院330)でも選挙後の混乱が予想される。
ブカレストの同国選挙管理委員会によると、与党「社会民主党」(PSD)が2020年の前回比で約6.5ポイントを減らしたが、得票率約22.5%で第1党を維持した一方、極右政党「ルーマニア統一同盟」(AUR)が前回の9.1%から17.7%とほぼ倍の得票率を獲得して第2位に躍進した。
第3党は中道右派の「国民自由党」(PNL)で13.59%と前回比で大きく得票率を落とした。それに次いで保守自由主義の改革派「ルーマニア救国同盟」(USR)が約12%だ。そのほか、ハンガリー系政党の「ハンガリー人民主同盟」(UDMR)が約7%、「SOSルーマニア」と「若者の党」(POT)の極右系政党の2党が7%、6%とそれぞれ獲得して議会進出した。今回選挙では計7党が議席を獲得した。
投票結果が判明した後、第1党をキープしたPSDのマルチェル・チョラク党首(首相)は「有権者が民主主義の強固さを証明した」と勝利宣言した。同党首は大統領選挙での敗北後に党首辞任を表明したばかりだ。
チョラク党首は「新政権の組閣はPSDが主導していく」と表明している。PSDは過去30年以上にわたりルーマニア政治を主導してきたが、同党は「利益配分型のクライエンテリズム」と見なされ、選挙で得票率が25%を下回ることはこれまでなかった。それだけに、大統領選と今回の議会選で25%以下の得票率に甘んじたことに同党関係者は大きな衝撃を受けている。大統領選でチョラク党首は19%しか得票できず、上位2人による決選投票に進出できなかった。
ところで、ドイツやオーストリア両国と同様、ルーマニアでも西側指向の全ての政党は「AUR」ら極右政党との連立を拒否している。AURとSOSとPOTの3極右政党の総得票率は30%を超えることから、選挙後の他の政党の連立政権交渉が難航することが必至だ。ちなみに、SOSとPOTの両党はAURより思想的には右寄りだ。この3つの極右政党は内部分裂が激しく、SOSとPOTはいずれも元AUR議員が立ち上げた分派であり、現在のAUR指導部と対立しているため、3党極右連立の少数政権発足というシナリオは非現実的だ。
ちなみに、世論調査では、ルーマニア国民の大多数は西側指向で、親ロシアに批判的な傾向が強い。それにもかかわらず、選挙で極右政党が大きく票を集めたのは、与党PSD内で横行する腐敗への国民の抗議票がAURらに流れたからではないか、と受け取られている。
同国では先月24日、大統領選が実施されたばかりだ。大統領選の結果は国内だけでなく欧州全体でも波紋を広げた。泡沫候補者と見なされてきた親ロシア派の右翼ポピュリスト、カリン・ジョルジェスク氏が首位となり、決選投票に進出したからだ。その背景には、ロシアの支援を受けた可能性のある集中的なTikTokキャンペーンがあったという。国の安全保障に関する国防最高評議会は先月28日、「選挙プロセスの正当性に影響を与えるサイバー攻撃があった」と述べている。
大統領選で敗北した候補者たちが選挙結果に異議申し立てている。それを受け、選管当局が先月29日、憲法裁判所の命令を受け、票の再集計を始めた。予定では今月8日、ジョルジェスク氏と第2位のUSR所属のエレナ・ラスコーニ氏との間で決選投票が実施される。
大統領選の決戦投票でジョルジェスク氏が勝利すれば、右派ポピュリスト陣営の政治家に新政権組閣を任せる可能性が考えられる一方、ラスコーニ氏が当選すれば、親欧州派の政治家が選ばれる可能性が出てくる。ルーマニア憲法では、国家元首には政府形成を任命する政治家を選ぶ権限がある。
なお、PSD主導政権はこれまで欧州連合(EU)のウクライナ政策を支持してきた。EUや北大西洋条約機構(NATO)にとって、ルーマニアは信頼できるパートナーと見なされてきた。
しかし、ジョルジェスク氏のような親ロシア派が軍最高司令官や防衛評議会議長の役割を担う大統領に選出された場合、対ウクライナ政策にも大きな変化が出てくることは必至だ。ルーマニアはNATO東側防衛線の重要な一部であり、ウクライナへの軍事支援の多くはルーマニア経由だ。これまでの政策からの転換はEUやNATOにとって大きな打撃となることが予想される。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年12月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。