ミレイ大統領にとって米国とイスラエルがアルゼンチン外交の基軸
トランプ氏の大統領選挙の勝利で非常に喜んでいるのがアルゼンチンのミレイ大統領だ。
ミレイ大統領は昨年の大統領選挙中から、彼の外交の基軸は米国とイスラエルに置くということを表明していた。彼はこの外交に信念を置いている。
先月10月の国連総会でキューバへの制裁を解除する議案にアルゼンチン代表のモンディーノ外相が賛成票を投じたことから、彼女を早速解任するという出来事もあった。棄権票を投じた米国とイスラエルの外交に従わなかったからだ。それはまた自由至上主義者のミレイ大統領にとって、市民の自由を束縛した独裁社会主義国家キューバを味方するわけにはいかないからだ。
米国にとってもアルゼンチンを味方につけることは非常に都合の良いものであある。なぜなら南米における米国の基盤となっていたコロンビアが、元ゲリラ戦闘員で社会主義者のグスタボ・ペトロ氏が大統領になってから米国はコロンビアへの信頼をなくしている。ブラジルのルラ大統領そしてチリのボリッチ大統領も社会主義者で米国とは歯車がかみ合わない。
ミレイ大統領は中国そしてロシアとの絆を弱体化
そんな中で、アルゼンチンで自由至上主義者のミレイ大統領が昨年12月に大統領として誕生。それまで20年余り続いたキルチネール派政権のアルゼンチンに終止符を打った。この政権ではロシアや中国といった国々と強い関係を結んでいた。途中、マクリ氏による中道右派政権が誕生。それは丁度米国のトランプ大統領の政権下と重なり両国に新たな関係が誕生した。しかし、マクリ氏の政権は1期4年続いただけで、再びキルチネール派政権に戻った。
それで米国はアルゼンチンとの絆を失った。ところが、アルゼンチンは20年余り続いた社会主義的な政権で汚職や慢性インフレの影響で経済は後退が続き、国民は嫌気を表明。それに乗じて改革を訴えた議員生活僅か3年目のミレイ氏が大統領となって、アルゼンチンは再び右派政権に戻った。
ミレイ大統領は大統領選挙戦中から脱中国とロシアを表明し、米国とイスラエルとの関係を強化することを明白にしていた。そしてミレイ氏が大統領になると、バイデン大統領は早速アルゼンチンとの関係復活の手を打った。米国から高官をブエノスアイレスに送り、今年2月にはブリンケン国務長官が訪問してミレイ大統領と会談をもった。同様に、トランプ政権で国務長官になるキューバ移民2世のルビオ氏もブエノスアイレスを訪問してミレイ大統領とスペイン語で会談した。
ミレイ大統領は米国次期大統領としてトランプ氏に懸けていた
ミレイ大統領は次期大統領はトランプ氏が復帰するということに懸けて、2月25日にワシントンで開催された保守政治行動会議(CPAC)に出席した。が、その前日にミレイ大統領はトランプ氏をメリーランドに訪ね会談をもった。これが両氏の初めての顔合わせであった。当初、ミレイ大統領の側近らの間ではトランプ氏と会談を持つことを避けるように勧めていた。彼が大統領に当選しないことを懸念してであった。しかし、ミレイ氏はトランプ氏の勝利を確信していたようだ。
この時点からトランプ氏は大統領になった暁には南米における戦略外交の軸をアルゼンチンに置くと決めたのであった。米国はこれまでブラジルとメキシコがラテンアメリカ諸国の中で最も重要度を置いて来た。しかし、ブラジルのルラ大統領もメキシコのシェインバウム新大統領もトランプ氏にとってはイデオロギーを別にする人物である。
またミレイ大統領との関係を深める裏付けとしてイーロン・マスク氏がいる。マスク氏はアルゼンチンにテスラの工場進出に強い関心を示している。その要因としてあるのは、アルゼンチンはEVのバッテリーに必要なリチウムの主要産出国のひとつだからである。そんな関係もあって両者はこれまで3度会っている。
トランプ氏が来年1月に大統領に就任すると、IMFからの負債についてもトランプ氏がIMFに圧力をかけてアルゼンチンに借款の追加枠を設けてくれることを望んでいる。実際、マクリ氏が大統領だった時に、当時の大統領だったトランプ氏の圧力があってIMFから440億ドルという融資枠を手に入れた。
ミレイ大統領の次の狙いはブラジルでボルソナロ氏が大統領として復活すること
またミレイ大統領はブラジルのボルソナロ前大統領の復活も期待している。彼の大統領就任式にボルソナロ氏を招待した。それに不満を表明したルラ大統領は出席を辞退したという経緯もある。
ブラジルはアルゼンチンにとって最も重要な貿易相手国である。ボルソナロ氏が大統領に復活すれば、アルゼンチンは米国とブラジルに外交の軸を置くことができるようになり、北米と南米に強力な味方を得ることになる。