貧乏人は貧乏が好き

黒坂岳央です。

以前、ビジネスマンと仕事の話をしていて常に変化する重要性についての話題になった。その際、「コンフォートゾーンを抜けるのは難しいからね。貧乏人だって貧乏が好きだからこそ、ずっと貧しいわけで」という返しがあり、この言葉が強く印象に残った。

自分自身が相当な貧乏だったので、この言葉には思い当たる節があるのだ。

※本稿は貧しい人をバカにするつもりはなく、自分自身の貧しい体験を用いて心理状態を考察し、問題提起する意図を持って書かれた。

PonyWang/iStock

貧乏生活は充実している

今の自分は貧乏ではなくなったものの、かつて貧乏だった生活を振り返ると「精神的に卑屈で、他者への僻みがすごくて、SOSを出しても誰にも届かず…」といったネガティブなものではなかった。正直、貧乏生活はかなり楽しく充実していた。

休日の朝からスーパーの無料給水サービスを使うために家と店を2往復したり、1円でも安いスーパーへ自転車で遠出をする。家庭菜園に興味を持ってミニトマトの種をホームセンターに見に行き、節約レシピを研究する。年末年始の単発バイトなど「時給の高いおいしい仕事」をつまみ食いしてまわり、キャッシュバックキャンペーンをはしごする。

すべては徹底して節約したりお金を貯めるための技なのだが、新たな節約技を閃いたり、安い店を探して開拓して遠出するなど創意工夫があってとにかく楽しかったことを覚えている。

楽しくも、正直こうした節約を積み重ねても決して豊かになることはできない。多少節約したところでたかが知れている。月3万円の出費を半分にするより、月20万円の給与をスキルアップして40万、50万円にする方が節約の手間も時間もかからず、しかもその効果は永続する。今の時代なら副業だろう。やるべきは節約より収入を増やす努力だ。

だからやるべきは目先の細々した節約で時間を取られるのではなく、仕事の収入を増やすことである。筆者はスキルアップの勉強もしていたが、節約や創意工夫自体もとても楽しく、正直それ自体にハマっていた。貧乏生活はクリエイティブに溢れている。だからなかなかやめられない。いや、そもそもやめたいと思っていなかった。この価値観は妻との出会いという外圧で変わったが、自分ひとりではずっと変わらなかったのだと思う。

今はお金を出して時間や快適さを買い、余剰の時間や労力をすべて仕事や学習など生産的なものに再投資をしている。確かに生産性はすさまじく向上し、明らかにこちらの方が経済的合理的があるが、時々楽しかった節約生活が懐かしくなることがある。

貧乏だった頃の価値観

自分が貧しかった頃と今とでは大きく変化した価値観がある。今は「結果を出すこと」だが、貧しかった頃は「頑張るプロセス」に重きをおいていた。

上述した節約や小銭を追う行為を楽しく、充実感を覚えていたのはその頑張って走り回るプロセスそのものに価値を感じており、「今日は疲れたけどすごく充実した一日だったな」と満足して布団に入っていた。

現在の自分はかけた時間や労力に見合わない節約はしない。車で遠出をする時は基本はすべて高速道路を使うし、東京や大阪へ仕事で出張をする時は電車ではなくタクシーを使う。セミナーに登壇する時は割高でも会場から近いホテルに泊まる。

その理由は体力を使えば旅行先や仕事でパフォーマンスが落ちるからだ。それよりも数百円、数千円を払ってできるだけ高いパフォーマンスで悔いのない結果を出したいという思考になったのだ。

よくネット上に「貧乏生活を抜け出すには?」といった議論があるが、意外にその全員が抜け出すことを求めていないこともある。元々、平均以上だったことが貧乏に転落すれば抜け出す意欲は強いだろうが、自分がそうだったように最初からずっと貧しい生活をしてきた人にとっては救済の必要性を感じていないこともある。貧乏生活に慣れるとそれも強力なコンフォートゾーンになるのだ。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。