なぜ今、ギャンブルなのだろう?

エコノミストの記事に「米国で高まる賭博熱、自由の象徴」とあります。ん? 今更ギャンブル、なぜ?と思いながら読み進めました。若干ライターの私情があるような気もしますが、数字としては2018年に70億ドルのスポーツギャンブルの市場が24年に1500億ドルにもなるというのですから「高まる賭博熱」というタイトルは妥当なのでしょう。

全米の多くの州で一定の規制の下、ギャンブルが解禁されたことは大きいでしょう。現在は38州で何らかの形で解禁されているとあります。アメリカでのギャンブルはラスベガスとアトランティックシティというのはあまりにも古い認識なのでしょう。

もう一つはスポーツ賭博に限らず、選挙賭博も最近、合法化され、選挙結果をめぐる賭け事ができるようになっています。また、多くはオンライン賭博であり、いつでもどこでもという気軽さが伴っていることで巨大な市場へと発展したものと推察しています。

ではなぜ、多くのアメリカ人は今更賭博なのでしょうか? 私はラスベガスには時折行きます。いつも思うのは、ホテル内のカジノでゲームに興じている一角に必ず見かけるのが年金生活の方の暇つぶし的なシーン。いわゆる1セントや5セントスロットに超長時間居座る高齢者の方々であります。

1セントなので買っても負けても知れているのですが、ラスベガスの独特の雰囲気が自然に自分もギャンブラーという気にさせ、スリルを味わい、当たった時のちょっとした興奮に「止められない、止まらない」状態にさせるのでしょう。

同じことは日本のパチンコ業界でもあるわけで派手な電飾、景気の良い音楽、更には凝ったスロットやパチンコ台が増え、ハマれば止められないわけです。

Travel Wild/iStock

ギャンブルに関する社会学的見地としてはいくつかあると思います。まず、比較的貧しい人たちのギャンブル熱、ストレス過多の現代社会、金銭的欲求の増大、緩和的社会のトレンドなどが上げられるでしょう。

比較的貧しい人たちのギャンブル熱とは時間の使い方が貧しいということかと思います。教育が大事という話をするのは教育レベルが十分にないと根気がなく、挑戦もせず、堕落的な生活に走りやすいということだと考えています。新しい世界を開拓したり趣味を追求するのも苦手という方が多いと思います。

ストレス過多は言うまでもなく一種の現代病ですが、私の仮説はストレスへの耐性が下がっている気がする点です。つまり、我々昭和の中期、ないしそれ以前に生まれた人たちはいわゆる困苦な生活を知っているので我慢するチカラがあるのです。ところが現代社会は生活環境の向上と共に一人っ子育ちで甘やかされてきたこともあり、社会の理不尽さに参ってしまうわけです。私には特に女性にその悩みを抱えやすい傾向がある気がします。ギャンブルはそれを忘れさせてくれる、というわけです。

金銭的欲求の充足をギャンブルで達成することは至難の業だと思います。しかし、我々が年末ジャンボ宝くじに長蛇の列をなして購入するのと同様「楽して儲ける」「運をつかむ」ことを人々は願っているのです。ある確率論者が宝くじほど勝率が低いものはないと述べていたのですが、人間の心理とは確率論で示される合理性を必ずしも持ち合わせず、自分なりの理由をつける傾向があると考えています。

緩和的社会のトレンドという点は上述のエコノミスト誌も指摘しています。記事には「米国におけるセックス、ドラッグ、アルコール、ギャンブルに対する姿勢は、清教徒時代に根ざした禁欲的な価値観によって形作られてきた」とあります。つまり禁欲の時代から一定の規制をしながらも自由を追求するというわけです。これはアメリカに限らず世界中ほぼどこでも同様の傾向はあります。

とすればギャンブルのみならずより快楽的、享楽的で刺激を求める傾向は続くと思います。アメリカでは連邦レベルでの大麻の合法化議論が浮かんでは消えという状態ですが、実態としては合法化が欧米のトレンドになりつつあります。

更に合成麻薬フェンタニルの問題は社会問題そのものですが、これも厳しい現代社会からの一時的開放を求めた結果でしょう。とすれば合成麻薬による死者の問題はその薬物の流入経路を議論する前になぜ、社会はそれほどストレスフルになったのかを議論しないと対処法的処置しかできないとも言えるでしょう。

おまえは快楽主義はないのか、と聞かれたら「一歩間違えばギャンブルよりもっと快楽と興奮を覚えることも出来る株式市場で大金を張っているからそんな子供だましのゲームはしない」と申し上げます。ということは私が一番ギャンブル愛好家とも言えるかもしれません。

「ではなぜ、お前はそんなに株式投資が好きなのか?」と言われたらずばり「この知能ゲームがたまらない!」と申し上げておきます。要は私も偉そうなことは言えないということです。苦笑

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年12月15日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。