20代の1万円は40代の10万円と同じ価値

黒坂岳央です。

本稿のタイトルはかなり大げさな数字ではあるが、遠からずあたっていると感じる。年を取れば取るほど、人はお金から引き出せる価値が減っていくことで知られる。

若い頃に人生を豊かにしたり、幸福にするためのコストは非常に安く済む一方、年を取るとそのコストは肥大化する。それ故にいかにお金を若い頃に使えるか?ということが人生のテーマそのものになると思っている。

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人生は「飽き」との戦い

若い頃はすべてが新鮮に感じる。それ故に何を見ても聞いても面白い。だが、一通り経験するとあらゆる体験に「既視感」を覚えるようになる。

筆者は昔「いつかカニを食べてみたい」という密かな願望を持っていた。”カニもどき”はよく食べていたが、本物のカニは食べたことがなく、漫画やアニメで描かれるカニを食べるシーンを見るたび、その夢を膨らませていた。

そのため、初めて北海道でカニを食べた時の感動は忘れられなかった。「これが本物のカニか!」と更に乗ったカニにカメラを向けて色んな角度から撮影をして「そこまで感動しなくても」と同行者を笑わせた。しかし、今はもうそこまで飛び上がるような感動はない。

高級な食事、ホテル、エンタメを一通り体験すると、もうお金を払って体験できる娯楽の中で新たに発掘したいものが消えていく。ものや体験を買うことはできても、フレッシュな感受性を買うことは二度とできないのだ。

人生全体でのお金の効率化

昨今、FIREブームで「若い頃の1万円は複利効果で将来の10万円の価値があるから、とにかくお金を受け取ったら金のなる木を買い続けろ」といった意見をよく見る。あくまで経済的合理性を考えるとこの指摘は正しい。ただ、この意見には大きな落とし穴がある。それは老化に伴い、お金から価値を引き出す力が衰えていく点だ。

若い頃、筆者は資産形成への活動はまったくやってこなかった。30歳になるまで給与はすべて、スキルアップや旅行などの自己投資や体験に全額投資してきたので恥ずかしながら30歳まで貯金は100万円もなかった。

だが、振り返ると結果としてこれで良かったと思っている。確かに蓄財のタイミングはかなり遅くなったが、その代わりに今からどれだけ大金を払っても決して買うことができない経験や思い出という価値に交換できたからだ。

そう考えると実は人生全体でお金の最適化をするのは相当に難しい。「ただただ資産運用でお金を限界まで増やす」という目的なら、節約して資産を買い続けるだけなのでシンプルでなんの迷いもない。だが、年を取ってから大金を得てもお金から価値を引き出す力が衰えてしまえば、せっかくの大金も価値が薄れる。

このあたりは名著DIE WITH ZEROでも「多くの人は死ぬ時に最もお金持ちになる」という目の覚めるような言及がなされている。

お金のかからない娯楽を楽しむ

若い頃にお金を使うべきだが、お金は若い頃から貯めておきたい。この矛盾を解消するための個人的なおすすめとしては、お金のかからない娯楽を楽しむということだ。

その筆頭が勉強と仕事だ。40代になり、お金を払って受け身の娯楽から幸福を引き出すことは難しくなっていくのを感じる。だが、勉強と仕事だけは昔からずっと楽しさは変わらない。いや、むしろ昔より楽しさが高まっていると感じる。

たとえば昨今流行りの生成AIについていえば、月額約3万円の「ChatGPT Pro」が話題になっている。

自分も本格的に生成AIの使い方を学ぶために、AI開発者やデータサイエンティスト、大学の研究者の発表や勉強会をオンラインだけでなく、直接参加しに行っている。しっかりとお金を払って聞きに行くつもりでも、そうしたイベントは大抵無料で行われている。だが、正直言ってどんな有料エンタメよりも面白く、学びが大きいと感じる。

またこうしたAIのような先端テクノロジーが高度化するほど、使用者のレベルがしっかりと結果に反映されるようになっている。若い頃に比べてレベルアップを続けることで、AIもそれに呼応して良い結果を出力してくれる。こうなると自分自身がさらに賢くなるための学ぶ意義を実感でき、ますます楽しく勉強ができるのだ。

もちろん時にはお金を使う自己投資もするべきタイミングもあるだろう。しかし、昨今学びの機会はいくらでもあるので、高い意欲さえあればお金を使わずあらゆることを学べる。

そしてありがたいことに今年に入ってから、いろんな企業からたくさんの魅力的な仕事が来るようになり、今は人生最大級に忙しいのだが、仕事をするプロセス自体が楽しい。

「お金のために嫌な仕事を仕方なく」ではなく、「仕事を通じて自分の能力を限界まで使う喜び」を味わっている感覚である。なんならこちらがお金を払ってでもいいから、仕事をさせてもらいたいと思えるものもある。仕事を頑張れば相手から感謝もしてもらえるのだから、これほどの娯楽は他にはないだろう。

仕事と勉強にハマれば人生はずっと楽しいし、お金を使わないので自然に老後の蓄財も進むだろう。

お金は思い残すことがないよう蓄財せず若い間にドンドン使って体験する。人生の早い段階で受け身の娯楽に遊び飽きたら、今度は勉強と仕事にコミット。これが筆者の考える理想のお金の使い方である。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。