シリアで半世紀以上続いたアサド父子による独裁政権が8日崩壊、旧反体制派勢力によるバシル暫定政権が発足すると、シリアの新政権は、国際社会への復帰に向けて積極的に取り組んできている。
シリアの新たな支配者、イスラム主義勢力「シャーム解放機構」(HTS)は24日、「全ての武装勢力の解散と正規軍への統合に関する合意に至った」と発表した。国営シリア通信社らが報じた。グループ指導者会合にはHTSの指導者モハンマド・アル=シャラア氏(通称ジャウラニ氏)らが出席したが、クルド系勢力の参加は不明だ。暫定政権の新たな国防相にはアサド政権軍と戦ってきた中心人物ムルハフ・アブ・カスラ氏が就任したという。
それに先立ち、ジャウラニ氏は22日、トルコのハカン・フィダン外相と会見し、その直後の記者会見で、「国家が管理しない武器が存在することは許されない」と表明し、反体制派武装勢力の非武装化の重要性を強調した。その際 シリア民主軍(SDF)が支配する北東部地域にも非武装化は適応されるという。
ちなみに、SDF(Syrian Democratic Forces)はクルド人勢力が主導する多民族混成部隊で、米国の支援を受けて活動している。シリア内戦における主要な対IS(イスラム国)勢力だった。主体はクルド人民防衛隊(YPG)であり、女性部隊(YPJ)も含まれている。アラブ人部隊やその他の少数民族(アッシリア人、トルクメン人など)も参加。推定約5~6万人の戦闘員を抱えている。
目的はクルド人の自治権確立を目指す一方、シリア全体の安定化を掲げている。拠点はシリア北東部(ラッカ、ハサカ、デリゾール)を中心に広範囲を支配している。
旧反体制武装勢力として、HTS、SDFのほか、「シリア国民軍」(SNA)が存在する。トルコが支援する反政府勢力の統一組織だ。「自由シリア軍(FSA)」と呼ばれていたが、2019年に再編され、「シリア国民軍」として組織化された。主にスンニ派アラブ人を中心としたシリア人傭兵だ。
トルコの軍事支援を受けており、目的はアサド政権の打倒と共に、トルコ政府の政策に基づき、クルド勢力(特にSDFの主要構成勢力であるYPG)との戦闘だ。活動地域はシリア北部(トルコ国境沿い)だ。
いずれにしても、3勢力はアサド政権打倒で一致してきたが、それ以外では対立してきた。利害も目的も異なる反体制武装勢力の非武装化は難題だ。暫定政権に主導的な役割を果たしているHTSは米国と欧州連合(EU)、トルコからテロ組織に指定されている。
例えば、アサド政権崩壊後もクルド系武装勢力とトルコ軍の武力衝突が報じられている。SDF内では、クルド人主体のYPG部隊が主導権を握っており、トルコ軍とその同盟勢力と対峙し、戦闘を繰り返している。トルコ軍とその支持勢力は、北シリアの他の一部地域を占拠している。トルコのフィダン外相は22日、「シリアにYPGの居場所はない」と述べているほどだ。
それに対し、米国は、イスラム国(IS)との戦いにおいてYPG部隊と同盟を締結している。ちなみに、トルコ、イラク、シリアに分散する多くのクルド人は、長年にわたり自治や独立国家の設立を目指してきた。外電によると、SDFはトルコが支援するSNAに反攻を行い、トルコ国境沿いの北シリアの地域を奪還しようとしている。一方、SNAは、シリアのマンビジ市を占領している、といった具合いだ。
なお、シリア西部ハマー県の都市でクリスマスツリーが焼かれる事件が発生し、波紋を呼んでいる。目撃者によると、23日の夜、ダマスカスや他の都市で数百人がこの行為に抗議するデモを行っている。シリア人権監視団によると、デモ参加者はシリアの国家統一を訴え、シリアの少数宗派キリスト教徒の保護を求めている。ジャウラニ氏はアサド失脚後、分裂した国の再統合を呼び掛け、「全ての民族、宗派は等しく公平に扱われるべきだ」と表明してきた。
シリアの暫定政権にとって懸念事項は、アサド政権を支援してきたロシアとイランの出方だろう。シリアからの報道によると、シリアの新外相アサード・ハッサン・アル=シバーニ氏は24日、イランに対しシリアの内政に干渉しないように警告している。
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は22日に行った演説の中で、シリアの若者にむけて、「この不安定さを引き起こし、仕組んだ者たちに断固として立ち向かえ」と呼びかけている。シリアの内戦勃発以来(2011年)、イランはアサド政権を軍事支援し、イラン革命防衛隊をシリアに派遣してきた。
アサド政権と闘ってきた旧反体制派勢力にとって、非武装化は大きな賭けだ。一方、バシル暫定政権にとって、今後の政治生命を左右する挑戦となる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年12月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。