明白に変わった日中関係:石破政権が中国に取り込まれるリスク

日中関係はドラスティックに変わりつつあると思います。これについてさほど賛否の議論が目立たないのも不思議なのですが、背景に関する考察も含め、私見を述べたいと思います。

日本と中国は外交に関して共に苦しい立場にあった、これは否定できないと思います。

石破首相と習近平国家主席 首相官邸インスタグラムより

中国は日本の鮮魚の輸入を規制し日本の水産関係者に懸念が広がったのはご承知の通りです。更に日本人の中国の短期ビザ免除が一時停止したことで日本のビジネスマンを中心に不便となっていました。更に台湾問題を含め日中の安全保障問題は暗礁に乗り上げていたと思います。

中国はアメリカから厳しい制裁を受け、国内経済の不振も含め、政権の運営能力に不信感がなかったとは言えません。経済成長率は凋落を続け、2025年の成長率は4.4%程度と見込まれます。これだけの人口を抱え、国内経済が成熟していない段階でこの成長水準ではいわゆる中所得国の罠から全く抜け出せないどころか、中国が迎える人口減少、更には都市部と農村部との問題や民族問題を含め、前途多難と言わざるを得ません。

中国が一帯一路政策や南シナ海の領有権問題、さらには台湾問題を抱えるのは以前から指摘している中国の拡大政策そのものでありますが、見方を変えれば外に影響力行使ができる国やエリアを増やすことで自国の発展を目指す思想そのものであります。一方、アメリカはそれを強くけん制し、中国の膨張にくぎを刺すことを基本政策として進めます。第三国からすれば「どっちもどっち」的なところはあり、最近ではトランプ氏がグリーンランドが欲しいと発言したのも安全保障上という名の自国の利益拡大であります。

習近平氏は第3期に入ってからポイントゲットできていない、これが実情でありました。かつては国民の不満を抑えるには「ガス抜き」対策として対日批判をもしていましたが、中国が明白に日本との関係に慎重になり始めたのは日米関係を含めた日本の取り込み策に180度転じたから、とみた方が正しそうです。

なぜ日本は取り込まれるのでしょうか?最大の理由は岸田元首相が苦しんだ自民党の政治資金不正問題を通じて自民党の保守派の牙城が崩れたことが中国にとって非常に都合よい風となったことは否めないでしょう。その上、首相には石破氏が就任します。石破首相はどう見ても対中国穏健派であり、アメリカと一心同体という思想は強くは感じません。おまけに石破氏にとって好都合だったのは首相就任後間もないAPECで習近平氏と会談が出来たことであります。これは双方にとって非常に好都合だったと思います。当時のメディアは外見的にこの初会談を揶揄する声もありましたが、私は習氏が「イシバとはディールできる」と確信を持ったと思います。

故に今般、岩屋外相が訪中した時、様々な案件で前向きな検討がなされ、明らかな雪解けムードを醸し出したことは否定できないと思います。

ではこの方針が日本にとって吉と出るか、これはもう少し様子を見なければなりませんが、個人的には中国に取り込まれるリスクがあるとみています。特に2点、懸念すべき点があります。

1つは1月中旬にもセットされる予定の石破ートランプ会談で日米関係をどう表明するのかであります。アメリカの日本分析官は既に詳細のレポートを政権やトランプ氏に送っていることでしょう。それはたぶん、「イシバは中国に緩和的であり、アメリカの対中方針と合わない恐れがある」と。岩屋外相はベテランである同時に中道的で物事を吟味するタイプに見えます。石破氏とはウマが合うのでしょう。ここが強硬派人事を展開するトランプ氏からみてどう見ても意気投合できるとは思えないのです。

2つめの懸念は岩屋外相が今回、日本側の譲歩案として出した中国人ビザの超緩和的方策です。富裕層についてはなんと10年の観光ビザを新設したのです。これは禍根を残すと思います。メディアの反応は「爆買いが戻る」といったお馬鹿さんなトーンですが、とんでもありません。爆買いは本人たちの買い物ではなく、エージェントが中国国内の人向けに買い付けしていたような仕組みですが、これが取り締まり強化で出来なくなったことで爆買いが消滅したのです。

では10年観光ビザで何が起きるか。まず、中国人による日本の不動産取得が加速します。しかも案外都心の高級物件などでも取得が進むでしょう。中国人不動産オーナーは定期的にやって来る中国人富裕層に賃貸するビジネスが爆発的に進むはずです。また周辺ビジネスも当然ながら活発になり日本が中国人に押される形が予見できます。

実は私が2週間前に東京にいた時、実家の隣の4階建て建物を中国人が取得し、実家にもお知らせの手紙が来ました。「民泊として運営するのでよろしく」と。ちなみに隣家は築45年になり施工時、酷い手抜き工事でその後、所有者が何度か変わる中で一度だけ伺ったことがあるのですが、4階の部屋は漏水で部屋にバケツだらけのマンガのような所在でした。これを買ったその中国人はどうしたのだろうと思いましたが、なんと中国人の建築工事屋が来て取ってつけたような張りぼて修復をしていったのです。いかにも中国人らしい仕事です。

人口減少の補完になるという見方と訪日外国人の多さで諸物価も上がり、日本人中には「外国人お断り」という動きも出ないとは限りません。政府はこの辺りがあまりにも無神経というか鈍感でバランスに欠けていると言わざるを得ないのです。

政策には予見が必要です。ここが欠落していて目先の対応に追われているように見えます。国民の意識は二の次でしょうか?日本政府と中国政府の対話は重要であり、石破、岩屋両氏は中国に好かれているようですからそこは利用すべきですが、安請け合いをしないように、そしてもっと大所高所からじっくり判断してもらいたいと考えています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年12月27日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。