見えない石破・岩屋外交路線の特色

岩屋外相の中国訪問をめぐり、10年間有効観光用マルチビザの導入や、歴史認識問題に関わる会談内容の発表をめぐる食い違いなどが話題となった。

今や中国のGDPは、日本のGDPの約3.5倍だ。人口は11.5倍である。長期にわたって国力を停滞させたまま、人口激減時代に突入した日本にとって、近隣の超大国との関係は、今まで以上に難しいものになっていく。

それにしても外交政策の特色が見えない石破内閣で、外務大臣を務める岩屋外相の外交ビジョンはどのようなものなのだろうか。外相ご自身の発言などを意識して見てみた。

12月27日に今年最後の記者会見を行った岩屋大臣は、「本年の振り返り」と表現しながら、あらためて「来年に向けての抱負」を語った。

「ウクライナ侵略や中東情勢、東アジアの安全保障環境など、本年も引き続き、国際情勢は大変厳しい状況が続きました」という状況認識を表明しつつ、岩屋外相は、「日米同盟の深化と抑止力・対処力の強化、『自由で開かれたインド太平洋』実現のための同盟国・同志国との連携の強化、そして、グローバル・サウスとのきめ細かい連携の3点を柱として、外交活動を進めてきた」と総括した。

そして次のように述べた。

国際社会全体で『法の支配』への挑戦が課題となっている中で、先月のG7外相会合では、改めて、G7の結束の強化を確認をし、米国を始め、各国の外相との信頼関係を構築することができてきたと考えております。また、APECに引き続いて、ウクライナを訪問させていただきましたが、「日本はウクライナと共にある」という、変わらぬ姿勢を伝えてくることができました。

そして、まさに今週、中国を訪問したところですが、近隣国である、中国、あるいは韓国との関係にも、しっかり取り組んでくることができたと思っております。世界の各地で、今なお戦禍が続き、国際社会の分断が深刻になる中で、我が国が戦後築いてきた信頼を土台に、来年も引き続き、「対話と協調の外交」を進めて、国際社会の平和と安定、繁栄に積極的に貢献してまいりたいと思います。

いずれももっともな内容だが、「特色」と言えるようなものがあるかは、判然としない。皆と仲良くやっていきたい、ということはわかるが、日本が何を達成しようとしているのか、論理的な線は必ずしも見えてこない。

「3点の柱」は、どのように「法の支配」や「ウクライナを訪問」と関わっているのだろうか。よくわからない。端的な言い方をすれば、アメリカやその同盟国が、引き続きウクライナ支援に熱心なので、日本も歩調を合わせている、といったところだろう。それが「日米同盟の深化と抑止力・対処力の強化」にもつながり、(G7諸国などの)「同盟国・同志国との連携の強化」にもつながるはずだ、ということのようである。

それでは欧米諸国と歩調を合わせて何かをするということ以外には、何を目指すのか。「グローバル・サウスとのきめ細かい連携」をするらしい。果たして「きめ細かい連携」とは何か。記者会見での発言を、文字通りそのまままとめてしまうと、外相就任からの3カ月で、「既に対面での会談は50回を超え、電話会談は35回、実施」した、ということが、「きめ細かい連携」ということが指している事柄であるらしい。

だが、何かないのだろうか。会談の数を積み増すことが自己目的化しているのではないかという誤解を与えないようにするために、それらを通じて目指しているものはこれです、という何かはないのだろうか。よくわからない。

そもそも外相発言をまとめると、G7諸国以外は全てまとめて「グローバル・サウス」であるらしい。中国も「グローバル・サウス」となる。新年早々に訪問する予定のインドネシアは「グローバル・サウスの雄」と呼んでいる。

この「グローバル・サウス」という概念は、2023年広島サミットのあたりから、日本外交で頻繁に用いられるようになった。どうやら「流行っている」という認識があるようだが、私はすでに繰り返し批判的な文章を書いている。

なぜ批判的かというと、ただでさえ曖昧な要素が多い日本外交の姿勢が、一層曖昧模糊としたものになる要因になるからだ。ただでさえ非欧米諸国の世界に対する知識・経験・人脈・関心が不足気味の日本社会の傾向を、いっそう悪化させてしまうような気がしてならないからだ。

「厳しい国際情勢」にどう対応するか?と聞かれて、「グローバル・サウスとのきめ細かい連携」で対応する、と答えるいうのは、破綻した話ではないが、具体的には何も言っていないに等しい。あまりに抽象度が高くて破綻しようがないので破綻しないだけである。

そもそも「大変厳しい国際情勢」に立ち向かっていくのに、「欧米諸国以外の国々は全て、みんなまとめて『グローバル・サウス』と括ってしまうのが、日本外交の基本姿勢です」、という話に陥るというのは、納得感がわかない。どちらかというとかなり大雑把な言い方で、「きめ細かさ」を感じることができる概念構成ではない。

会談の数を繰り返すのは悪いことではないし、それによって見えてくるものもあるだろう。しかし数を重ねることが自己目的化してしまったら、そこからは何も生まれない。きめ細かいか否かが重要論点ではない。

石破内閣の岩屋外交は、果たしてこれからどうなるのか。先行き見通しの不透明感が残る。

篠田英朗国際情勢分析チャンネル」(ニコニコチャンネルプラス)で、月2回の頻度で、国際情勢の分析を行っています。