「人生という地獄」を楽しむ力

黒坂岳央です。

古代ローマのウェルギリウスの名言に「誰もがそれぞれの地獄を背負っている」というものがある。これは「他人から見たら幸せに見えても、本人にしかわからない苦労や生き辛さがある」という教訓であると認識している。だが現実問題、隣の芝生は青く見える現象に苦しむ人は大変多い。

この名言を理解することで、人生はずいぶん生きやすくなると思っている。個人的に好きな言葉なので取り上げたい。

Arthit_Longwilai/iStock

他人の地獄を想像しなさい

お正月、親戚の人から「あなたは何かと恵まれていてうらやましい」と言われた。どうやらこの相手からは仕事も家庭も人生がうまくいっているように見えているようである。そしてそこで話は終わらなかった。「それに引き換え自分は理不尽な苦しみばかり。本当に運が悪いよ」と続いた。

その時に本稿のタイトルの言葉を思い出したのだ。みんな自分の地獄をよく知っているが、他人の地獄を想像できないしそもそも存在を信じようとしない。地獄は自分一人が味わっており、他人は極楽浄土にいると思い込んでいるのだ。

だが筆者は知っている。普段、明るく前向きな人もわざわざ自分の地獄を言わないだけであるということを。他人から見てどれだけうまくいっているように見えていても、形を変えて地獄は一生続くのが普通である。

今回の件のように「あなたは恵まれていてうらやましい」と無理解なことを言われても、いちいち取り立てて反論などしない。理解してもらえるという期待値が0だからだ。だがどうしても、他人には軽々しく同じことをいう気にはなれないのだ。

人生という地獄を楽しむ力

サラリーマンの頃、独立をすれば天国が待っていると思うものだ。しかし、実際に独立後は別の地獄が待っている。

独身で結婚願望が強い人は、好きな相手と結婚したら天国が待っていると思うだろう。しかし、そこには別の地獄が待っている。

進学や就職で成功したり、難関資格合格を果たした人は、そこからは別の地獄が待っている。

そして起業して仕事がうまくいって安定して勝ち続けると今度は、「独立直後のうまくいかない中、苦心惨憺して毎日難題を突破して成長し続けるあの日々が懐かしい。もっと強い刺激がほしい」と言い始める。

結局、人生は一生苦悩し続けるのが「普通」である。大事なのは地獄を避けようとするのではなく、地獄そのものから楽しみを引き出す力を持つことだと筆者は考える。

独立活動中、週末起業家として平日はサラリーマン、土日に起業活動をしていたが、何年もほぼまったく稼げない日々が続いた。おそらく、普通の人が同じことを味わうと強い苦しみに感じるかもしれない。

だが不思議と、その過程は楽しかった。「時給を考えるととても割に合わない」「なぜこんなにいいビジネスが売れないのだ!」などと考えたことは一度もなかった。「よし、次はあれをやってみよう。これをやってみよう」と空想が広がって一つ一つ試していく工程そのものが楽しかったからだ。

独立後はサラリーマン時代になかった苦悩や悩みは多いが、一切の課題がない日々を想像すると「そうなれば今度は刺激が欲しくなるだろうから、今の状態は十分幸せなのだ」と思うようになった。

地獄の本質を理解することで、他人にも優しくなれる。筆者は嫉妬をすることがない。その最大の理由は「うまくいっているように見える人も裏では泣いている」と地獄の存在を考えるからである。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。