シリア新政権「キリスト者の信仰の自由」保証

シリアを半世紀以上支配してきたアサド独裁政権が昨年12月8日、崩壊し、旧反体制派勢力から成るバシル暫定政権が12月10日発足すると、シリアの新政権は国際社会への復帰を目指して積極的に取り組んできた。シリアの新たな指導者、イスラム主義勢力「シャーム解放機構」(HTS)のアハマド・シャラア氏(通称ジャウラニ氏)はシリア国民の統合を掲げ、少数民族。宗派らとの連帯を重視し、新しい国づくりに乗り出してきている。

シリアを訪問したイエズス会使節団と会見するシリアの新指導者シャラア氏 2024年12月31日、ダマスカスのシリア大統領宮殿で、アルアラビ―ヤ通信社

シャラア氏は12月24日、「全ての武装勢力の解散と正規軍への統合に関する合意に至った」と発表。29日には中東のテレビ局アルアラビーヤとのインタビューで、新憲法の起草と新体制に移行するための選挙の実施への日程を初めて明らかにしたばかりだ。シリアの新政権に対して、欧米諸国ではアサド政権時代の対シリア制裁の解除を検討する動きが見られる一方、反体制派勢力の暫定政権に対して依然、懐疑的な姿勢を崩していない。米国、欧州連合(EU)、トルコは依然、HTSをテロ組織に指定している。

そのような中、バチカンニュースは4日、「シリアの新しい指導者、フランシスコ教皇に深い敬意を表明」という見出しで、シリアの新政権が同国の少数宗派のキリスト教に理解を有していると大きく報道した。シリア国民の大多数はイスラム教スンニ派だが、それ以外にもイスラム教少数宗派やキリスト教など多数の宗教が存在する。アサド父子による独裁政権ではイスラム教の中でも少数宗派のアラウィ派が国内を統治してきた。シャラア氏はアサド失脚後、分裂した国の再統合を呼び掛け、「全ての民族、宗派は等しく公平に扱われるべきだ」と表明してきた。

ちなみに、内戦前、シリアのキリスト教徒は人口の約10%を占め、アサド政権と比較的親しい関係を保っていたが、現在では人口の2%以下だ。約150万人いたキリスト教徒は、現在では30万人程度にまで減少した。シリア全土には約400のキリスト教会がある。キリスト教徒の内訳は、ギリシャ正教会(47%)、アルメニア使徒教会(15%)、メルキト派ギリシャ・カトリック教会(15%)、シリア正教会(14%)が主要宗派だ。他にも、シリア・カトリック教会、アルメニア・カトリック教会、マロン派、アッシリア東方教会、カルデア東方カトリック教会、少数のローマ・カトリック教徒やプロテスタント信徒が存在する。シリア西部ハマー県の都市で先月23日、クリスマスツリーが焼かれる事件が発生した。目撃者によると、ダマスカスや他の都市で数百人がこの行為に抗議するデモを行っている。シリア人権監視団によると、デモ参加者はシリアの国家統一を訴え、シリアの少数宗派キリスト教徒の保護を求めた。

バチカンニュースの記事内容に戻る。シャラア氏は12月31日、キリスト教宗教指導者たちと行った会談で、フランシスコ教皇を「真の平和の男だ。平和と苦しむ人々のための呼び掛けと行動には深く感銘を受けた」と称賛する一方、シリアのキリスト教徒に対して「シリアのキリスト教徒は、私たちの民族の歴史における重要で欠かせられない存在だ。国内で安全に暮らし、信仰の自由を持つことを保証する」と述べている。これは、聖地管理区副総監イブラヒム・ファルタス神父が、バチカン新聞「ロッセルヴァトーレ・ロマーノ」に4日付けの記事で報告したものだ。ファルタス神父とフランシスコ会の使節団のシリア訪問は先月29日、世界教会の司教区で「希望の聖年」が開幕した日に始まった。ヨルダンからレバノンを経てシリアを訪れた。

「このような出来事は、シリアの歴史上、3週間前までは想像もつかなかったことだ」・・ダマスカスの教皇大使であるマリオ・ゼナリ枢機卿は新年インタビューで語っている。シリアでは、キリスト教徒の国外流出は長年続いている。同枢機卿は「これを食い止めたい。私はクリスチャンに対して、今はシリアを離れる時ではなく戻る時だと言ってきた。私たちは新しいシリアの再建において目に見える存在でなければならない」と強調している。ゼナリ枢機卿はまた、女性の権利が新憲法で明確に保証されるべきだと訴えている。

なお、ドイツのアナレーナ・ベアボック外相とフランスのジャン=ノエル・バロー外相が1月3日、西側諸国の政治家として初めてシャラア氏と会談した。外電によると、大統領宮殿で行われた会談でベアボック外相は「全ての人々が憲法制定プロセスや将来のシリア政府に参加しなければならない」と強調し、EUがシリアの未来を平和で自由なものにするために支援する意向を表明している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年1月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。