国民民主党の減税案は迷走しているが、その次に玉木さんが打ち出そうとしている「就職氷河期世代」の対策は、それより重要だ。
「無年金老人」がホームレスになって都市にあふれる
氷河期世代とは1990年代から2000年代前半までに就職活動した人々で、約2000万人。この時期の新卒就職率は低く、1998年には大卒で55%だった。残り半分の学生は非正社員として雇われ、そのまま高齢フリーターになっている人も多い。
彼らは国民年金に入ることになっているが、その未納・免除率は高く、最近では50%を超えている。国民年金の被保険者(第1号)は約1500万人なので、その半分が未納・免除とすると、氷河期世代が60代になる時期には800万人の無年金老人が出現する。
これによって生活保護の受給者は今の200万人の5倍になり、予算は4兆円から20兆円になる。多くの無年金老人は生活保護も受けられず、ホームレスとして大都市に集まり、先進国で問題になっているスラム化が、日本でも深刻な問題になるだろう。
基礎年金から最低保障年金へ
これを避けるためには、最低所得保障の考え方を根本的に変える必要がある。今の国民年金や国民健康保険は、1950年代に農民や自営業者を対象につくられたもので、高齢フリーターのような無収入の人を想定していない。
しかも3号被保険者という負担ゼロで年金をもらえるフリーライダーが700万人もいるため、その赤字を2号被保険者(サラリーマン)の厚生年金で埋めている。今度の厚生年金保険法改正では、すべての中小企業が厚生年金に強制加入になる。厚生年金は社会保険料30%で考えると、必ず損する金融商品である。
このゆがみをなくすには保険という建て前をやめ、最低限度の生活を税金で保障する考え方に転換する必要がある。それが国民民主党も選挙で公約した最低保障年金である。
これは民主党政権が公約した全額税方式の年金だが、安倍政権が握りつぶした。そのときの案は河野太郎氏のブログにも書いてあるが、2階建ての公的年金の1階(基礎年金)をすべて消費税でまかなうものだ。
これは民主党政権でも提案されたが、当時の消費税率は5%だったので、基礎年金を消費税でまかなうには税率を2倍以上に上げる必要があった。
しかし今は基礎年金勘定25.6兆円に対して消費税収は23.8兆円で、そのうち地方消費税を除く17.7兆円が最低保障年金の財源になる。あとは生活保護を廃止してその予算4兆円をあてれば、消費税は3%程度の増税で十分だろう。
最大の障害は「消費税のタブー」
問題は、消費税をきらう政治家が多いことだ。2012年の「社会保障と税の一体改革」も最低保障年金を実現するために消費税の増税を決めたのだが、財務省が増税だけ食い逃げし、厚労省が年金改革をつぶしてしまった。今も与野党ともに消費増税を主張する党はない。
これが社会保障改革の行き詰まる原因だから、大事なのは税収中立にすることだ。消費税を3%増税する場合は、社会保障支出を7兆円ぐらい削減する必要がある。たとえば医療費の窓口負担を一律3割にし、高額療養費制度の高齢者優遇をやめれば約7兆円の支出が削減できる。
これは負担増にはならない。税と社会保険料を合計した国民負担は同じである。国民年金保険料は年額20万円。これは定額の「人頭税」なので、低所得者ほど負担率が高い。たとえば年収1000万円なら負担率は2%だが、200万円なら10%だ。
それに対して消費税は消費に比例するので、年収250万円の人が所得の60%を消費すると、消費税は15万円で保険料より低い。税率を3%上げると税負担は約20万円になるので、これが保険料との損益分岐点である。それ以下の低所得者は保険料より消費税のほうが得なのだ。
ここでは政治家の恐れるシルバー民主主義は障害にはならない。消費税は高齢者も払うので負担は増えるが、国民年金は今のままではマクロ経済スライドで大幅に減額される。それより税で確実に最低所得を保障するセーフティネットのほうが安心だ。
減税か増税かは問題ではない。税収中立にすることはむずかしくない。大事なことは社会保険料という不公平で逆進的な税を、公平で透明な消費税に置き換えることだ。これは低所得者には有利なので、国民民主がていねいに説明すれば、氷河期世代は賛成してくれるだろう。