1. はじめに
原子力発電で使用した原子燃料の再処理によって分離される高レベル廃棄物(いわゆる「核のゴミ」)を地中深くに埋設処分するために、処分場の候補地となりうるか否かを調査する「文献調査」が北海道の寿都町、神恵内村、および、佐賀県の玄海町で受け入れられ、実施されている。
高レベル廃棄物の処分は原子力発電全体の運営を成り立たせるための重要なプロセスであり、国民全体が取り組むべき課題であるが、実情は一般市民の関心が薄く、施策への推進機運が十分には盛り上がっていない。
「核のゴミ」処分の問題を進展させるためには、電気の大消費地であり原子力発電の恩恵を受けてきた都会の人々が、処分地選定に関心を持ち、処分地の役割を担ってくれる立地地域に対して敬意と感謝を示すことが重要である。
ここでは、東京都民がこれまでに原子力の恩恵を受けてきた度合いや原子燃料の消費量を評価し、どれだけの高レベル廃棄物の処分を処分地に依頼することになるかを明確にしたいと考える。
2. 東京都民の原子力発電使用量
東京電力が原子力発電を開始した1973年から東日本大震災で発電を停止する2011年までの38年間に、東京都民が使用した原子力発電電力量は以下のように計算される。
東京都民が使用した原子力発電電力量 =(各年次の東電販売電力量(A)※1) × 各年次の原子力発電の割合(B)図1) × 各年次の東京都内の電力消費量が東電全体の電力消費量に占める割合(C)※2))の38年分合計量
まず、各年次の東電販売電力量(A)は、※1)に示すとおりである。
38年間の合計販売電力量は8兆3000億kWhとなる。
各年次の原子力発電の割合(B)は、図1の上部のピンク色の部分である。図1に表示されていない年次(1974~1998年の間の数か所)は内挿により推定した。
(A)×(B)の38年分の合計は2兆5500億kWhとなる。これが原子力発電により供給された合計電力量である。
これを(A)の38年分の合計8兆3000億kWhで割ると、原子力発電の平均構成割合が求められる。結果は30.7%なので、これを丸めて原子力発電の割合平均値=約30%とする。
各年次の東京都内電力消費量が東電全体に占める割合(C)については、※2)をベースに算出する。
※2)に例示した2015年と2022年の東京都の電力消費量は775億、758億kWhなので、それぞれの年次の東電販売電力量2471億、1731億kWhで割り算すると、0.31、0.44となる。2016~2021年の計算は省略するが、値は0.31と0.44の間にある。
原子力を使っていた1973~2011年の東京都の統計数値が見当たらないので、2015~2022年の数値を流用することとし、平均的に0.35とした。
以上より、東京都民がこれまでに使用した原子力発電電力量は、
1973~2011年の東電販売電力量合計値(8兆3000億kWh) × 原子力発電割合の平均値(約30%) × 東京都内の電力消費量割合の平均値(35%) = 8700億kWh
すなわち、東京都民が原子力発電の恩恵を受けた電力量は、約9000億kWhである。
3. 東京都民の原子燃料使用量
100万kWの原子力発電所を1年間運転すると、約60億kWhとなる(下記参照、設備利用率を70%とした)が、これを発電するために必要な原子燃料は21トン(図2参照)なので、東電がこれまでに使用した原子燃料の総量は、約8700トンとなる。
100万kW × 365日 × 24h/日 × 0.7 = 61億3200万kWh ⇒ 約60億kWh
1973~2011年東電販売電力量8兆3000億kWh × 0.30 × (21トン/60億kWh)= 8715トン ⇒ 約8700トン
東京都の電力消費量は東電全体の約35%なので、東京都民が使用した原子燃料は約3000トン(=8700 × 0.35 =3045)である。
この原子力発電によって、オイルショック後の経済の立ち直りや、成長する産業全体への電力安定供給、安価安定な電力料金が達成されてきた。
4. 東京都民が使用した原子燃料の高レベル廃棄物の処分
上記のように東京都は既に約3000トンの原子燃料を使って安価安定な電力を享受してきた。このことは、使用済みとなった燃料の処理処分についても受益者として責任を持つ必要があるということである。
約3000トンの使用済み燃料の再処理から発生する高レベル廃棄物は、ガラス固化体という長期的に安定な梱包・処理形態に加工して地中深く埋設される。ガラス固化体は、使用済み燃料800トン分が 1000本に加工されるので、3000トン分では3750本となる。これが埋設の対象となる数量である。
38年間の東京都の原子力利用の結果が3750本のガラス固化体で済む、ということである。
高レベル廃棄物の処分については、現在、北海道の寿都町、神恵内村、および、佐賀県の玄海町が処分地候補の可能性を調べる「文献調査」を受け入れてくれて、実施されている。
その結論がどのようになるかは別として、高レベル廃棄物の処分の重要性を認識し、国民・市町村民の議論を活発化・具体化するために行動を起こしてくれていること自身が、大きな尊敬に値する。
東京都民は、原子力発電による安価安定な電力の恩恵を受けた(今後も受ける)者として、「文献調査」を受け入れてくれている自治体に敬意を表し、お礼を述べ、サポートする必要があると言えよう。
東京都知事は、高レベル廃棄物処分地「文献調査」を受け入れてくれている自治体の首長や、北海道知事、佐賀県知事にお礼とお願いに出向くべきである。そういう行動こそが自治体の尽力に感謝を示す道であろう。
少なくとも、全国知事会や定例記者会見などの場を利用して、「文献調査」受け入れに対してだけでも感謝の気持ちを公式に表明することが大切なのではないだろうか。
5. まとめ
以上に記したように、東京都民はこれまでに約9000億kWhの電力を原子力の恩恵として受け取り、約3000トンの原子燃料を消費してきた。現在、その使用済み燃料から分離される高レベル廃棄物を埋設処分する課題に立ち向かう時期となっており、処分地候補の可能性を調べる「文献調査」を受け入れてくれている自治体がある。
東京都民は、それらの自治体に敬意と感謝の気持ちを込めて、お礼に行きましょう。
【参考資料】
※1)「年次ごとの東電販売電力量」 (「数表でみる東京電力」より)
※2)「都内における再生可能エネルギーの利用状況調査」(2015~2022)東京都環境局
年次ごとの報告書に東京都内の電力消費量の数字が掲載されている。2015年、2022年資料の表の部分を抜粋(2016~2021年分は省略)
【2015年】
都内の電力消費量775億kWh/東電全体の販売電力量※1)2471億kWh = 0.31
【2022年】
都内の電力消費量758億kWh/東電全体の販売電力量※1)1731億kWh = 0.41