バチカン・ニュースが11日報じたところによると、イタリア教会司教会議は新たな神父養成指針を発表した。この指針には、虐待防止、女性や心理学専門家との協力強化、さらには同性志向を持つ人々の聖職への道についての規定が含まれている。この指針は1月9日に施行され、当面の間3年間有効だ。2006年版の指針に代わるもので、バチカンの承認を受けて制定された。
神父養成指針で注目される点は、性的指向に関する神父養成の規定が緩和され、同性愛者は今後、原則として神父職から排除されることがなくなる。バチカン・ニュースによると、「養成過程において同性愛的傾向が話題となる場合、その判断をこの側面に限定するのではなく、他の候補者と同様に、その若者の人格全体の中での意義を理解する必要がある」という。ただし、同性愛者の神学生に対しても、異性愛者の神学生と同様、性行為は禁止される。2016年にバチカンが発表した指針では、「実践的な同性愛者」や「根深い同性愛的傾向を持つ者」、また「いわゆる同性愛文化を支持する者」は、原則として神父職から除外されることになっていた。
新指針では、数年間にわたる養成期間中に、「個々の性的成熟への成長が重要な役割を果たす」と強調されている。「現代の社会文化的状況は、その矛盾や曖昧さとともに、この分野でより真の成長を遂げるための特別な機会を提供する」と説明。これらのテーマが現在自由に取り組まれていることは、神父候補者が人間的、心理的、霊的にさらに成熟するための良い前提条件を形成しているという。司教たちは、養成課程における率直な議論を推奨している。候補者は自己を構成するすべての要素、性的指向を含む人格全体をますます自覚し、それを統合し、十分な自由と落ち着きをもって対処できるようになることが求められる、というのだ。
聖職者の未成年者への性的虐待問題については、指針では「法的な次元に限定されるべきではなく、法的責任や制裁の可能性を判断するために弁護士に委ねるだけでは不十分である」と強調。法的な対応に加えて、虐待の経緯、原因、そして「個人および社会、共同体、教会の文脈」を理解することが必要だと指摘している。神父養成では国家レベルの児童保護基準を考慮に入れるべきと主張。特に神父候補者の選考に際しては、彼らの過去に特段の注意を払う必要があり、「いかなる形でも犯罪やこの分野での問題のある状況に関与した経歴を持っていてはならない」と強調している。
世界に14億人以上の信者を抱える最大のキリスト教派、ローマ・カトリック教会の総本山バチカン教皇庁のヴィクトル・マヌエル・フェルナンデス教理省長官は2023年12月18日、「同性カップルもカトリック教会で祝福を受けることができる」と表明した。フェルナンデス枢機卿が署名し、教皇フランシスコが承認した政策表明文では、「不規則な状況にあるカップルや同性カップルを祝福する可能性について」と問題点を明確にしたうえで、「同性カップルも教会内で今後祝福を受けることができる」と強調し、「結婚の秘跡に内在する祝福との混同を避けるため、教会での儀式的枠組みの祝福とは区別しなければならない」と説明し、「教会の公式の婚姻サクラメントとは違う」とわざわざ述べている。
教理省は2021年2月、「神の計画に従って明らかにされたものとしては客観的に認識されない」として、「同性パートナーシップの祝福は許可されていない」と宣言してきた。それを23年12月、「聖職者は祝福を願う同性カップルに対し、教会の公的な儀式外ならば祝福を認める」と述べたわけだ。
そして今回、ローマ教皇のお膝元のイタリア教会司教会議が神父になろうとする聖職者に対しても同性愛者を聖職から排除しないという新しい指針をまとめたわけだ。ただし、正式に決定するまでに3年間という期間を置いている。ローマ・カトリック教会ではこれまで性モラルについて公に協議することは少なかったが、聖職者の未成年者への性的虐待問題が至る所で発覚し、大きな社会問題まで発展してきたことを受け、聖職者になろうとする神学生時代から「教会と性問題」について理解を深める必要性が出てきたからだ。
ちなみに、バチカンには同性愛クラブが存在すると久しく囁かれてきたが、それを裏付ける出来事が起きたことがある。バチカンの教理省高官(当時43)が2015年10月、記者会見で自分が同性愛者だと告白したのだ。ローマ教皇フランシスコ自身が2013年6月6日、南米・カリブ海諸国修道院団体(CLAR)関係者との会談の中で、「バチカンには聖なる者もいるが、腐敗した人間もいる。同性愛ロビイストたちだ」と述べている。
また、オーストリアのローマ・カトリック教会サクト・ペルテン教区のクラウス・キュンク司教は「神学セミナーや教会聖職者の一部に同性愛的(ホモセクシュアル)な雰囲気を感じることがある。彼らは特定な人物に強い関心を示す」と述べた上で、神学セミナーや修道院で同性愛者のネットワークが存在すると指摘。「彼らが教会や修道院で拡大、増殖していった場合、教会や修道院の存続が危機に陥る」と警告を発したことがある。
いずれにしても、ローマ・カトリック教会と「同性愛問題」は久しく隠蔽されてきたテーマだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年1月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。