ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は14日、モスクワ外務省で2024年のロシア外交の結果に関する慣例の記者会見を開いた。ロシア外務省が公表したプレスサービスの文書に基づいてその質疑応答の一部紹介する。
同外相は「プーチン大統領が昨年12月19日、記者会見で近年の国際情勢について基本的な評価や、ロシア側の対応、目標について詳細に説明しているのでここでは繰り返さない」と断りながら、「現代は国際法文書(国連憲章)に明記された秩序を擁護する勢力とそれに反する勢力の対立する時代だ。後者の勢力は『冷戦に勝利した』と宣言し、政治的西側、集団的西側は自分勝手に国連憲章を無視し、ロシアを地政学的に弱体化しようとしている。われわれはヤルタ・ポツダムシステムが国際的に法的意味があり、修正はあり得ないと信じている。これは国連憲章だ。欧米の独裁に反対しているのはロシアだけではく、中国、インド、ブラジルなど世界に広がってきている」と強調している。
そして、国連安保理事会の改革については、「常任理事国の改革は支持する。インド、ブラジルやアフリカから常任理事国を出すことには理解できる。理事国15カ国中、欧米から6カ国が既にメンバーだ。米国に従順だけで『独立した発言権』のないドイツ、日本の理事国入りには反対だ。発展途上国から代表をもっと受け入れるべきだ」と指摘した。
トランプ氏の再登場について、「冷戦終了後、北大西洋条約機構(NATO)は拡張しないと約束してきたが、嘘を言ってきた。ウクライナの加盟問題ではトランプ氏はその点を理解しているはずだ。プーチン大統領はトランプ氏との会談については何度も用意があると繰り返し述べてきた。トランプ氏が大統領に就任し、アメリカを一層偉大にするとすれば、その目標をどのように達成するのか、私たちは非常に慎重にも守らなければならない」と答えている。
ちなみに、日本に対しては、「政治的に米国に従順なだけだが、日本は他の国と違い、スポーツや文化の交流といった他の分野では我が国と交流している」と説明し、日本を称賛することを忘れなかった。同外相の発言内容は広範囲に及ぶ。メディアで既に報じられているからここでは省略する。
同外相(74)はプーチン大統領の外交ブレインとして2004年3月から20年間以上、モスクワの外相を務めてきた。ラブロフ氏はプーチン大統領の信頼を得ており、その結果、ロシアの外交政策において広範な権限を与えられているという。一方で、ラブロフ氏もプーチン氏の指示を忠実に実行しており、この協力関係がロシア外交に安定性をもたらしている面は否定できない。両者の外交方針は、アメリカやNATOを牽制し、多極化した国際秩序を推進することに焦点を当てている。
同外相の口からはプーチン大統領が語らなかったことが飛び出すことはないから、爆弾発言とかスクープ情報といったものはほとんど期待されない。その代り、大統領の発言を追認するという役割を演じる機会が多い。その意味で側近の忠誠を重視するプーチン氏にとって無難な外相だ。外相が大統領を凌ぐプレゼンス(存在感)を有していたならば、モスクワでは20年間も外相のポストを担うことはできない。
ところで、ラブロフ外相は平気でうそ発言をする。なぜならば、プーチン氏が虚言を発するからだ。外相はそれを修正したり、是正することはなく、繰り返すだけだ。例を挙げて説明する。2023年3月3日、ラブロフ外相はインドの首都ニューデリーを訪問し、そこで開催された国際会議でウクライナ戦争に言及し、「わが国は戦争を止めようとしている」、「(ウクライナ)戦争はウクライナの攻撃で始まった」と堂々と語ったのだ。外電によると、会場から笑いが漏れたという。その笑いの中には、「嘘」を平気で喋るロシア外相の厚顔無恥さに対する驚きも含まれていただろう。ラブロフ外相はプーチン大統領の政策を外に向かってラッパを吹く役割だから、自身の役割を果たしただけに過ぎなかったのだろう。
ラブロフ外相は1972年にモスクワ国際関係大学を卒業した直後、ソ連外務省に入省した時、将来、ロシア外交のトップとなって世界を駆け巡る外交官になろうと夢見ていただろう。今年3月21日に75歳の誕生日を迎えるラブロフ外相は「ウクライナ戦争が始まって以来、プーチン大統領の発言をそのまま語るマリオネット外相だ」と欧米外交筋では冷ややかに見られている。
なお、ソ連時代を含み、外相の在任最長記録はスターリン、フルシチョフ、ブレジネフらのもとで活躍したアンドレイ・グロムイコ外相(1957年から85年の28年間)だ。グロムイコはミスター二ェット(Noの人)という異名で呼ばれ、西側世界との対立の象徴的な存在だった。ラブロフ氏がその記録を破ることができきるだろうか。ただし、そのためには少なくとも2032年まで外相職を務めなければならない。同氏はその時82歳となっている。プーチン政権が継続され、健康問題がない限り、可能性は排除されない。欧米社会はカリスマ性がなく、存在感の乏しいロシア外相としばらくはまだ付き合わなければならない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年1月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。