人間関係が豊かな人

プレジデントオンラインに、『これができないと孤立する…ハーバード大の研究で判明「人間関係が豊かな人と貧しい人」を分ける2つの要素 相手に遠慮して自分から話しかけない人の人間関係は貧しくなる』(24年4月29日)と題された記事があり、筆者の昭和女子大学総長・坂東眞理子さんは「大事なポイント」として、「自分が相手にしてあげられることはなんだろうと考えて行動する」及び「自分にはたいしたことはできないからと、遠慮しすぎない」を挙げられています。

「本当の自分を知り、本当の自分をつくれる人であって、初めて人を知ることができる、人をつくることができる。国を知り、国をつくることもできる。世界を知り、世界をつくる事もできる」とは、私が私淑する明治の知の巨人・安岡正篤先生の御著書『人間としての成長』にある言葉です。人間関係を豊かにするために、「自分が相手にしてあげられることはなんだろうと考え」ることではないと思います。先ずは自分です。私は畢竟、自分自身が自分を磨き人間的魅力を如何に備えて行くかに尽きるのだと思っています。

当ブログ「北尾吉孝日記」で、『我を亡ぼす者は我なり』(20年7月29日)という中で次のように述べておきました――安岡先生は東洋思想に基づいて、人物を磨くための4つの観点として、①しっかりとした「志」と「礼」を持つ/②全ての責任を自らに帰す/③直観力を養成する/④人間的魅力を高める、を挙げておられます。此の第二の「全ての責任を自らに帰す」ということは、東洋思想の根本です。東洋では、己が修行をし、その上で周囲を感化できるようになると考えます。(中略)自己革新をし自己の徳性を高め、その徳性で他の人を感化して行くのです。

『大学』に「修身、斉家(せいか)、治国、平天下(へいてんか)…身修まりて後、家斉(ととの)う。家斉いて後、国治まる。国治まりて後、天下平らかなり」とあります。天下泰平を齎す根本なるは「身を修める」ことであり、東洋思想の基本は先ず自分自身が正しく在らねばと考えることです。身を修め、人間的魅力を増せば結局は、周りとの関係も良くなります。「自分にはたいしたことはできないからと、遠慮」する必要もありません。それが自分だからです。先ず自分の人間的魅力を高め、自分が出来ることを増やせば良いだけの話です。

人間的魅力というのは、持とうと思って持てるものではありません。己の境涯・境遇の中でどう自分自身を成長させて行こうとするか、それにより人間関係の豊かさ・貧しさが決まるのだと思います。時空を越え精神の糧となるような書物に虚心坦懐に教えを乞い、片一方で事上磨錬(じじょうまれん)し日々その学びを実践して行く中で、自分を律し常に自分を省みつつ修養するのです。そうした努力の積み重ねの上に私利私欲が段々と減ぜられ、利他の精神が醸成されてくるのです。そしてその人の人間的魅力は高まり、人との間の良好な関係も広がり、深まるのだろうと思います。


編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2025年1月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。