免疫学者アンソニー・ファウチ博士の予防恩赦に反対

バイデン米大統領は20日、退任直前にトランプ現大統領の政敵と見られる人物に対して予防的恩赦を与えた。恩赦を受けた人物は、免疫学者アンソニー・ファウチ博士、トランプ氏の元統合参謀本部議長マーク・ミリー氏のほか、議会襲撃事件の調査委員会の全メンバーが含まれていた(その中には、リズ・チェイニー元下院議員やアダム・シフ元下院議員が入っている)。

調査委員会は、米議会議事堂が襲撃された事件の背景や責任者の役割を調査するために設置されもので、トランプ氏の事件との関与などが調査された。

中国武漢ウイルス研究所(WIV)Wikipediaから

バイデン氏は予防的恩赦を実施した理由について、「私たちの国家は、献身的で利他的な公務員に日々依存している。彼らこそが民主主義の生命線だ。彼らがその職務を誠実に果たすことで、常に脅迫や威嚇にさらされるのは憂慮すべきことだ。ただし、これらの恩赦が、不正行為の承認や罪を認めるものとして誤解されるべきではない」と強調している。

米大統領には、連邦法で有罪判決を受けた者の刑を短縮したり、完全に恩赦する権限があり、任期終了間際にこの権限を行使する例はよくあるが、将来の可能性のある連邦レベルでの起訴を未然に防ぐための予防的恩赦は異例だ。過去にはウォーターゲート事件に関連して辞任したリチャード・ニクソン氏に対し、後任のジェラルド・フォード大統領が与えた「全面的で自由かつ無条件の恩赦」があるという。

米大統領が自身の権限で恩赦(予防的恩赦を含む)を行うことに反対するつもりはないが、バイデン氏が退任直前に予防的恩赦した人物の中にアンソニー・ファウチ氏の名前を見つけた時、残念ながら反対せざるを得ないのだ。ファウチ博士は2年前、米国大統領の医療主任顧問および国立感染症研究所の所長を退任した。それ以前、彼はアメリカにおける新型コロナウイルスとの闘いの中心人物として著名な科学者だ。彼は、国立感染症研究所を約40年間率い、合計7人の米国大統領の下で働いてきた。

2020年3月、ホワイトハウスで Covid-19 について記者会見を行うファウチ氏 Wikipediaより

なぜファウチ博士の予防的恩赦に反対するかは、同博士が新型コロナウイルスのパンデミックの全容解明をまだ明らかにしていない疑いがあるからだ。共和党にとってファウチ博士はパンデミックを象徴する存在であり、コロナ対策におけるあらゆる失敗を体現する人物と見なされている。ウイルスの起源を隠蔽したのではないかという疑いに対し、同博士はこれまで一貫して否定してきた。

中国武漢発の新型コロナウイルスの発生源問題では「自然発生説」(a natural zoonotic outbreak)と「武漢ウイルス研究所=WIV流出説」(a research-related incident)の2通りがある。前者を支持するウイルス学者が多いが、後者を主張する学者も少なくない。

米上院厚生教育労働年金委員会(HELP)の少数派監視スタッフの共和党議員らが15カ月間にわたり調査、研究して作成した「COVID-19パンデミックの起源の分析、中間報告」(An Analysis of the Origins of the COVID-19 Pandemic Interim Report)が2022年10月下旬、公表され、関心を呼んだ。

同報告書は全35頁、4章から構成され、結論として、「公開されている情報の分析に基づいて、COVID-19のパンデミックは、研究関連で生じた事件(事故)の結果である可能性が高い」と指摘、「WIV流出説」を支持している。その直後、米エネルギー省は2023年2月、中国武漢発「新型コロナウイルス」の発生起源がWIVからの流出との結論に至ったという。同省の結論は新たな情報に基づいて下されたというが、その詳細な情報は明らかにされなかった。

当コラムで何度か指摘してきたが、新型コロナウイルス感染起源を知るうえで貴重な学者がいる。彼らは過去、WIVと接触があり、中国人ウイルス学者、「コウモリの女」と呼ばれている新型コロナウイルス研究の第一人者、WIVの石正麗氏と一緒に研究してきた専門家だ。

例えば、ウイルスの機能獲得研究、遺伝子操作の痕跡排除技術は、米ノースカロライナ大学のラルフ・バリック教授、そして英国人動物学者で米国の非営利組織(NPO)エコ・ヘルス・アライアンス会長のペーター・ダザック氏らとの共同研究を通じてWIVの石正麗氏が獲得していった内容だ。ダザック氏らは米国の税金でWIVのコウモリ研究を支援してきた。米国の感染症対策のトップと言われるファウチ博士も、WIVと関係を有してきた。

ちなみに、機能獲得研究とは、ウイルスの感染力、致死力をアップするための研究で、ウイルス学者からは「非常に危険な研究」といわれてきた。米国のオバマ政権はその研究を禁止したが、数年後、再び許可されたという。ファウチ博士はウイルスの機能獲得研究を支持していた。

ドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は南ドイツ新聞(SZ)とのインタビュー(2022年2月9日)で、武漢ウイルスの解明を阻止しているのは中国側の隠蔽姿勢にあると明確に指摘したうえで、「実験を知っていた米国の科学者たちの責任」にも言及している。

調査ジャーナリストとして著名なシャリー・マークソン女史(Sharri Markson)は、「中国共産党政権は世界の覇権を握るために世界のグローバル化を巧みに利用し、最新の科学技術、情報を手に入れてきた。武漢ウイルスはそのグローバル化の恩恵を受けて誕生してきたのだ」と述べているが、パンデミックの全容解明が容易ではない大きな原因は中国共産党政権の隠蔽にあることは明らかだが、米国にもその責任の一旦があるのだ。

生物細菌兵器の開発は中国だけではなく、ロシアや米国も行ってきた分野だ。特に、米国の科学者たちは中国の科学者と一緒になって危険な実験を繰り返してきたといわれる。ファウチ博士はその内容を知っているはずだ。世界で700万人以上の死者をだした新型コロナのパンデミックの全容が解明されるまで、ファウチ博士に予防的恩赦を与えるべきではない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年1月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。