第2次トランプ政権は始まった。トランプ大統領は20日の就任式での演説で「黄金時代が始まった」と語り出し、最後も「黄金時代の始まり」を宣言してスピーチを終えた。米国は250年の歴史でまだ「黄金時代」を体験していなかったのだろうか。演説の中で、トランプ氏は第25代米大統領ウィリアム・マッキンリー(任期1897~1901年)を「偉大な大統領」と呼び、「マッキンリー元大統領は、関税と才能を通じて米国を非常に豊かにした。彼は生まれながらのビジネスマンで、彼がもたらした資金によりテディ・ルーズベルト元大統領は多くの偉業を成し遂げることができた」と述べている。ひょっとしたら、トランプ氏はマッキンリー元大統領の中に自身の未来像を描いているのかもしれない。
世界の歴史の中で「黄金時代」と呼ばれる時代や概念は、歴史や文化の文脈でたびたび用いられてきた。この表現は、ある地域、国、または文明にとって非常に繁栄したり、平和が続いたり、文化や芸術が花開いたりした時期を指すことが多い。そこで人工知能(AI)のChatGPTに歴史の中で代表的な「黄金時代」と呼ばれた時代、文明について例を挙げてもらった。
1.古代ギリシャの黄金時代
古代ギリシャでは、ペリクレスの時代(紀元前5世紀)が「黄金時代」とされる。この時期、アテネは文化、哲学、建築(パルテノン神殿など)が栄え、民主制が確立した。
2.イスラム文明の黄金時代
8世紀から13世紀頃、イスラム世界では科学、数学、医学、哲学、建築が大きく発展した。特に、バグダードの「知恵の館(Bay tal-Hikma)」は知識の中心地として知られた。
3.オランダの黄金時代
17世紀のオランダは、経済、芸術、科学が大いに発展した。レンブラントやフェルメールなどの芸術家が活躍し、東インド会社を通じて貿易も繁栄した。
4.スペインの黄金世紀(Siglo de Oro)
16世紀から17世紀にかけてのスペインは、文学(セルバンテス)、絵画(エル・グレコやベラスケス)、建築が盛んになった時期として「黄金世紀」と呼ばれている。
世界の歴史の中で「黄金時代」と呼ばれた時代は主に文化、哲学、医学、科学技術が著しく反映している。領土が拡大され、経済が反映した時代というより、文化・学問一般の発展が黄金時代を築いてきているのだ。だから、ロシアのプーチン大統領がウクライナ戦争に勝利し、領土を拡大し、キエフ大公の聖ウラジーミルの生まれ変わりを自負したとしても、プーチン氏の統治時代をロシアの黄金時代だったと後日指摘する歴史学者は少ないだろう。戦争で荒廃した領土からは文化の香りが消える。破壊からは国家、民族の文化は育たないからだ。
ちなみに、世界の歴史で最も長く続いた「黄金時代」といえば、古代エジプトだろう。約2000年以上にわたって統一国家を維持し、ピラミッドの建設、科学、技術、芸術が発展した。新王国時代(紀元前1550~1069年)は特に強力で、ラメセス2世などの王が繁栄を象徴している。
アジアでは中国の唐王朝時代だ。618年から907年と約300年間続いた。中国史上の「黄金時代」とされ、経済、文化、技術が飛躍的に発展した。シルクロードの交易が盛んで、首都長安は国際都市として繁栄した。詩人李白や杜甫の活躍もこの時代の象徴だ。また、インドのグプタ朝(320年から550年)はインドの「黄金時代」とされ、数学(ゼロの概念の発展)、天文学、医学、文学が栄えた。平和と繁栄が続き、仏教やヒンドゥー教の文化が広がった。
それでは、トランプ氏の「黄金時代」の始まりについて少し考えてみた。トランプ大統領が「黄金時代が始まった」と発言したのは、主にアメリカ国内での経済的復興を意味してきた。その意味で「黄金時代」は実際の歴史的概念ではなく、政治的なメタファーやレトリックとしての意味合いが強いかもしれない。トランプ氏の支持者にとっては、経済成長や雇用の増加などを基にした「明るい未来」の象徴として受け取られた面があるだろう。
明らかな点は、国民経済の発展、高騰するインフレ対策、雇用拡大だけでは「黄金時代」の始まりとはいえない。上述したように、過去の「黄金時代」は経済の発展よりは、文化、学問、芸術の発展がその主要な原動力だったからだ。
それではトランプ氏の「黄金時代」の場合はどうだろうか。トランプ氏は「常識革命」といわれる文化面での刷新を宣言している。行き過ぎたキャンセルカルチャー、過剰なジェンダー思想などの負の文化から伝統的な文化への復帰が叫ばれている。
大統領職の任期は4年間だ。この限られた短い任期で「第2次トランプ政権は米国の黄金時代の始まりだった」と歴史学者が後日語ることが出来る成果を挙げられるだろうか。トランプ氏の挑戦は今、始まったばかりだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年1月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。