ポーランドで宗教授業削減に批判の声

旧ソ連・東欧諸国がまだ共産政権時代の話だ。レフ・ワレサ氏が主導した独立自治労組「連帯」が民主化運動を促進するなか、ポーランド統一労働者党(共産党)の最高指導者ウォイチェフ・ヤルゼルスキ大統領は当時、「わが国は共産国(ポーランド統一労働者党)だが、その精神はカトリック教国に入る」と述べ、ポーランドがカトリック教国だと認めざるを得なかった。そのポーランドでクラクフ出身のカロル・ボイチワ大司教(故ヨハネ・パウロ2世)が1978年、455年ぶりに非イタリア人法王として第264代法王に選出された時、多くのポーランド国民は「神のみ手」を感じたといわれた。

ポーランドで大ヒットした映画「Kler」のポスター

ポーランドで民主化後、1990年以降、学校で宗教という選択科目が導入されたが、同国教育省は今月17日、宗教授業を削減することを決定したのだ。それに対し、同国カトリック教会司教会議は「違法行為だ」として激しく批判している。「バチカンニュース」が23日報じたところによると、カトリック教会司教会議のスポークスマン、レシェク・ゲシアク氏は「法的措置」を行う可能性を示唆した。ヴォイチェフ・ポラック大司教はインタビューで、憲法裁判所に提訴することについて、世界評議会加盟7宗派と協議すると発表している。

バルバラ・ノバツカ教育相は17日、宗教教育が週2時間ではなく、週1時間のみ行われることを定めた政令に署名した。さらに、公立学校は小学校を除き、宗教教育を選択科目として1日の最初または最後の授業時間にのみ提供することになる。これにより、宗教教育に参加しない生徒たちは授業に遅れて来たり、早く帰宅したりできるようになる。

ノバツカ教育相はビデオメッセージで、「この措置は常識的な判断に基づくものだ。これまで若者たちは、生物学、化学、物理、社会学、安全教育を合わせたよりも多くの宗教教育を受けてきた。これが変わり、学校は可能な限り良い教育を提供し、将来、特に職業面での準備を整える場所となるだろう」と述べている。

欧州の代表的カトリック教国ポーランドで宗教授業削減問題が飛び出したのは決して偶然でも、突発的な決定でもないこと明らかだ、愛国主義的な右派与党「法と正義」(PiS)が政権を統治していた時、政府と教会は密接な関係を維持してきたが、前回の議会選挙(2023年10月15日)で野党第1党の中道リベラル政党「市民プラットフォーム」(PO)主導の野党連合が過半数を獲得し、8年間続いたPiS政権に代わって新政権が発足されて以来、政府と教会の関係は依然のような緊密なものでなくなった。

ポーランドは久しく“欧州のカトリック主義の牙城”とみなされ、同国出身のヨハネ・パウロ2世(在位1978年10月~2005年4月)の名誉を傷つけたり、批判や中傷をすることは最大のタブーだった。同国の国家統計局のデータによれば、国民のほぼ90%はカトリック信者だ。そのカトリック教国のポーランドでカトリック教会への信頼が急速に低下している。

同国の政治学者アントニ・デュデク氏は、「教会の危機は今始まったものではなく、長い年月をかけて深刻化してきた。原因として、①旧共産党政権との癒着、②聖職者の未成年者への性的虐待と聖職者の贅沢な生活スタイル、③聖職者とPiSの結びつきなどが挙げられる」と述べている(バチカンニュース2020年11月4日)。

ポーランド教会では聖職者の性犯罪があったという報告はこれまで1度も正式には公表されなかった。聖職者の性犯罪が生じなかったのではなく、教会側がその事実を隠蔽してきたからだ。沈黙の壁を破ったのは聖職者の性犯罪を描いた映画「聖職者」(Kler)だ。同国の著名な映画監督ヴォイチェフ・スマジョフスキ氏の最新映画だ。小児性愛(ペドフィリア)の神父が侵す性犯罪を描いた映画は2018年9月に上演されて以来、500万人以上を動員した大ヒットとなった。国内で教会の聖職者の性犯罪隠ぺいに批判の声が高まっていった。

同時に、民主化後、同国社会は急速に世俗化していった。カトリック教会の中絶絶対禁止という教義に多くの国民は抵抗と失望を覚えている。ワルシャワでは10万人を超える抗議デモが行われた。教会の壁に落書きが書かれ、礼拝が妨害されるという事態が生じたことはまだ記憶に新しい。

同国のカトリック教会司教会議は憲法裁判所に今回の教育相の決定を提訴する意向と言われるが、それ以上に聖職者の未成年者への性的虐待問題を調査し、国民の前にその全容を報告、謝罪することが先決だろう。一旦信頼を失うと、それを取り戻すことは至難だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年1月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。