露呈した北朝鮮兵士の戦いぶりが揺さぶる影響:落とし穴になりかねないプーチン氏との連携

ロシアに派兵された北朝鮮兵士の惨状は少し前に韓国の国家情報院から発表された時が死者300名、負傷者2700名あまりでした。これが数日前のBBCでは死傷者数は4000名、うち1000人が死亡と報じています。多くはロシアのクルクスに派兵されているので、ウクライナ軍が侵攻したロシア領においてウクライナ軍の更なる拡大を阻止し、国境線まで押し返す、これが北朝鮮兵に課された任務でありましょう。

プーチン大統領と金正恩総書記 2024年6月20日 クレムリンHPより

形の上ではロシア軍の傘下に師団を作っての活動であろうと思いますが、言葉のギャップが当初指摘され、味方同士で相打ちをするなどの問題や北朝鮮軍が実戦に不慣れであることも指摘されています。実戦に不慣れというのは戦争当事国を除けばどこでも同じでこれは日本の自衛隊でも全く同じことは言えるのでしょう。

それ以上に私が思うのは北朝鮮が国家として情報操作していたことが兵士の損失につながっているとみています。末端の兵士は世界で何が起きているのか、あるいは戦争のレベルがどういうものであるのかといった基本教育がほとんど欠落していて未知との闘いを強いられているようです。捕虜になった北朝鮮兵は自分たちがウクライナの戦争に来ることは知らなかったと述べています。捕まりそうになって自爆しようとして「金正恩将軍」と叫んだというのも80年前の戦争時代から何ら変わっていないように見えます。

北朝鮮は派兵された兵士の家族に手厚い対応をしているようにも見えず、兵士の給与が高いわけではなく、将来一種の「英雄」扱いにされるだけが条件のように報道されています。ほとんど無知な若者を国家の外貨稼ぎと先端技術の導入のために引き換えで差し出されたとしてもおかしくありません。

ロシアにおける北朝鮮軍の惨状は北朝鮮国内ではかんこ令が敷かれているようですが、実際には漏れ伝わっている感じも見受けられます。北朝鮮軍は陸軍を中心に128万人いるとされています。ある意味、今までよく食わせてきたと思います。ちなみに韓国軍は総数50万人でうち陸軍は42万人です。数だけみれば北朝鮮が圧倒していますが、実際の戦力となるとかなり落ちるということが今回判明してしまいました。これは韓国軍にとって「北朝鮮軍は言うほどでない」というイメージを植え付けたかもしれません。

ただ韓国軍も実戦をしたことがなく、仮に今、朝鮮半島で地上戦が起きた場合、単なる肉弾戦だけで考えればどっちもどっちな気がします。近年の戦争は指導者の戦略と作戦、陸海空軍のみならず、ドローンやロケット弾など近代兵器の取り扱い、いつの戦争でも決定的に重要な結果をもたらす情報戦(諜報戦)、第三国による外交を含めた支援が極めて重要になるでしょう。

少なくとも私が感じる限り、金正恩氏のプーチン氏との連携は金氏にとって落とし穴のような結果を生む可能性が出てきたと思います。今後、ロシアへの派兵がどれぐらい続き、兵士の損害がどの程度に及ぶか次第ですが、その結果は否が応でも本国にもたらされ、その事実が分かった時の北朝鮮軍の金氏への忠誠心が維持できるのか、それとも極めて緊張する関係に陥るか重要な岐路に立たされるとみています。

金正恩氏は若かりし頃、軍との関係が悪化したことがあり、それを修復するのに苦労したことがあります。今回はその時のレベルに比べてはるかに難しい状況になっています。またトランプ氏はロシアと北朝鮮の分断作戦をするとみています。それをどういう形に進めるかは想像の域を出ませんが、トランプ氏は北朝鮮に甘い蜜と厳しい制裁のどちらを選ぶか踏み絵をさせるとみています。

トランプ氏は既にプーチン氏との会談について具体的な場所やタイミングの調整に入っているので全て想定通り進むならトランプ氏と金正恩氏のディールは今年中に起こりえることもあります。

トランプ氏が望む金氏とのディールの内容によっては金王家の崩壊も絶対にないとは言えない気がします。最近は金正恩氏が娘を公の場に同席させることが増えてきましたが、金氏の周辺は初めの頃は可愛い娘さんぐらいにしか思っていなかったと思いますが、ここまで露出されると快く思っていない人も相当いるはずで金家崩壊のシナリオはあり得るとみています。そういう意味ではロシア派兵が金正恩氏にとって運命の分かれ道だったと将来言われることも絶対なくはなさそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年1月27日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。