イーロン・マスク氏、ドイツ「極右政党」AfDの選挙集会にビデオ出演

世界的実業家であり、トランプ米大統領の最側近の一人、テック業界の億万長者、イーロン・マスク氏は25日、ハレで開催されたドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の公式選挙キャンペーン開始集会にビデオ出演し、AfD支持をアピールした。

AfDの首相候補者ヴァイデル党首、2025年01月25日、ハレの党集会で、AfD公式サイトから

ドイツでは来月23日、早期連邦議会選挙が実施される。複数の世論調査によると、AfDは野党第1党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU・CSU)に次いで第2党についている。4500人余りの党員が集まったハレの会場でマスク氏はアリス・ヴァイデル党首によるスピーチの冒頭で米国からビデオ出演し、「AfDこそがドイツの最良の希望だ。ドイツ人であることを誇りに思うことは良いことだ」と語り、「ドイツの素晴らしい未来のために戦え」と党員たちに発破をかけ、「過去の罪に焦点を当てすぎず、それを乗り越えなければならない。子供たちは曾祖父母の罪で責められるべきではない」と述べ、ナチス・ドイツの戦争犯罪問題に捉われず、未来に対して楽観的であるべきだと呼びかけた。

マスク氏は「ヴァイデル党首が首相になれば、ドイツにとって非常に良いことだ」と繰り返し、AfD支持を表明。「AfDは私の完全な支援を受けており、トランプ政権からも支援を得ていると信じている」と述べた。それに対し、ヴァイデル党首は、トランプ政権への感謝の気持ちを述べている。

AfDの集会でスピーチをするマスク氏

ちなみに、マスク氏とヴァイデル党首は今月9日、マスク氏が運営するプラットフォーム「X」で75分間余りの対談を行ったばかりだ。マスク氏はドイツの既成政党を批判し、「希望はAfDだけだ。AfDだけがドイツを救う」と表明してきた。マスク氏は、独連邦憲法擁護庁によって「極右の疑いがある」と認定されているAfDへの選挙広告を行い、ドイツの代表紙「ヴェルト日曜版」に寄稿を掲載している。

両者の対談では、マスク氏は既存の政治体制や規制に対する批判を繰り返した。例えば、テスラの工場建設に関する認可の遅れや、気候政策、エネルギー政策への不満を表明した。極右政党は「現状打破」や「既存のエリートに対する挑戦」を掲げており、マスク氏の自由主義的で規制を嫌う姿勢と一致する部分がある。マスク氏はまた、極右政党が掲げる移民制限や反グリーン政策に共感を示している。

ヴァイデル党首とマスク氏の間には意見の違いもあった。例えば、マスク氏は「太陽光エネルギーのファン」だが、ヴァイデル氏はマスク氏の持論には反論せず、その代わりに原子力発電の可能性を指摘し、原発の閉鎖を批判すると、マスク氏はその批判に理解を示した。また、移民問題では、マスク氏は制御されない移民には反対する一方、規制された移民には肯定的だった。また、両者は欧州連合(EU)のインターネット規制を批判し、ヴァイデル氏はドイツの教育システムに対して否定的な見解を示した。

マスク氏の総選挙への干渉はドイツ国内でも物議を醸している。マスク氏がX上でドイツのシュタインマイヤー大統領を「反民主的な独裁者」と批判し、それに先立ちショルツ首相を「馬鹿者」呼ばわりしたばかりだ。

なお、AfDの25日の選挙集会にはマスク氏の他、オーストリアの極右政党「自由党」党首ヘルベルト・キックル氏もビデオメッセージを送り、「私たちはこの選挙戦で皆さんと共に戦っている。AfDとFPOはパートナーだ。AfDは唯一、国民の声に耳を傾ける政党だ。ヴァイデル党首は闘志にあふれた人物だ」と評し、エールを送っている。

なお、同集会の会場周辺には反AfDグループが集まり、抗議デモをした。警察官とデモ参加者が衝突するシーンもあった。ドイツ通信(DPA)によると、黒い服を着た自転車グループが集会会場に突入しようとしたが、警察隊が阻止したという。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年1月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。