DeepSeekを使ってはいけない3つの理由

黒坂岳央です。

今月、中国産AIDeepSeekのリリースで米国は大変なショックを受けた。中国は米国の最先端のチップにアクセスできないまま、低価格で画期的なAIモデルを構築し、それがオープンソースだった。これにより、NVIDIAの高価なGPUの需要や米国ITテック群の巨額のAI投資に疑問が生じたとして、米国株は急落した。

米App Store総合順位で1月27日現在、米国では生成AI「DeepSeek」がランキング1位となっている。米中半導体、AI戦争に核爆弾が投下されたような衝撃である。

そして今回のAIは米国製ではなく、中国製である。中国というだけで忌避するのはビジネスマンとして正しい態度ではない。実際、AIに強い専門家は「これはすごい。高性能GPUを使えない状況下にありながらイノベーティブな技術革新をやってきた」と評価する人もいる。AIは変化が著しいので、今後はさらに大きな変化があるかもしれない。

だが少なくともこの原稿を書いている段階で、3つのリスクを認識しておくべきだろう。

※本テーマは金融や株、米中AI覇権争いやAIテクノロジーなど様々な観点で論じるポイントが異なるが、この記事については「ビジネスマンがツールとして使う」という範囲に限定した話である。

fatido Carkhe/iStock

1. 知的財産リスク

ChatGPT、Geminiなど米国製AIと比較し、DeepSeekをビジネスで利用する上では、次のような法や情報のリスクが考えられる。

DeepSeekに入力されたデータがどのように処理され、保存されるかが不透明であり、知的財産や機密情報がDeepSeekや中国政府など第三者に渡る可能性がある。

「心配ならスタンドアロンで使えば良い」という話もあるが、このAIの抱える別のリスクを踏まえると、特殊な環境を用意してまでこわごわ使うくらいなら、既存の米国製AIでも対応可能だろう(たとえ米国製AIでも「機密情報」は入力するべきではないが)。

また、アカウント削除後もデータ保持をする権限を有すると規約にあり、さらにユーザーと同アプリ間には機密保持契約がない。そのため、入力した情報の機密性が法的保護されることはないのだ。

これでは商業利用は難しいと感じる人がいるのではないだろうか。

2. 国家安全法リスク

中国の法律である「国家安全法」や「サイバーセキュリティ法」では、中国政府や共産党への中傷や反対活動が厳しく取り締まられている。DeepSeekに入力したデータが中国政府の名誉を毀損すると解釈される場合、中国法に基づいて責任を問われる可能性は排除できない。そしてその判断はあくまで中国当局の判断によるものだ。

DeepSeekは中国本土のサーバーでデータを処理・保存され、必要に応じて中国当局がアクセスできる。海外にいる我々日本人は、中国政府から国際的に追及されることはないが、将来的に中国を訪問した際に拘束されるなどを考えると、迂闊な投稿はできないリスクは常に付きまとう。

3. 誤った情報のリスク

最後は中国よりの誤った情報のリスクだ。

尖閣諸島の領土について問われると、DeepSeekは「中国の固有の領土」と堂々と答える。一方でChatGPTは「日本の領土」と回答する。台湾統一について尋ねると、DeepSeekは侵攻を肯定する。天安門については回答しない。

一方で複雑な計算問題などはしっかり解けるし、コーディングにも強い。用途を限定すれば問題なさそうに見えるが、中国共産党よりの偏った思想に触れる人や時間が増えることで、誤った認識が広がる可能性は意識しておきたい。

今後どうなるかはまだわからないが、少なくとも現時点ではDeepSeekを使う上でこのようなリスクが生じるという認識でいた方がいい。使用するならリスクを理解した上でオフラインにしたスタンドアロン機に限定するなどを勧めたい。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。