黒坂岳央です。
先月末、東京・秋葉原のパソコン工房で混乱が起きた。最新のグラフィックボード「GeForce RTX5080/5090」の購入希望者が殺到し、3000人以上が押し寄せた結果、警察が出動する騒動となり、販売店は公式SNS上で謝罪する事態となった。
人が集まって近隣に迷惑をかける騒ぎになったのも確かに問題だが、真の問題は別に起きていた。それは中国の手に最新GPUが渡ってしまうことである。これは米国から見た流出危機である。
米国の禁輸措置をかいくぐる流出
この騒動の背景には、米国による対中輸出規制の影響がある。その理由はNVIDIAの高性能GPUはAI開発や軍事転用に関与しており、米国が国策として中国に渡らないようにしているためだ。
現在、日本では高性能GPUがそのまま買える状態なのだが、今回の発売を受けて中国人転売ヤーが殺到してRTX5090を大量に買い占め、高値で流す事例が問題視されている。
これが米国の目に留まれば、「日本でGPU流出が起きている」となり、我が国にも性能を落としたグラフィックボードしか流通しないリスクも出てくる。さらに日米の安全保障上の信用を失う懸念に繋がりかねないだろう。
「他国経由で流出などあり得るのか?」と思われるかもしれないが、実際、世界に衝撃を与えたDeepSeekについては、同社の創業からシンガポールへのNVIDIAの売上が740%上昇し、シンガポール経由でGPUが流れているという見方もある。
Did DeepSeek illegally buy Nvidia's chips?
Since DeepSeek was founded, Nvidia's sales to Singapore are up a WHOPPING +740%.
The US is now PROBING if DeepSeek bought Nvidia's GPUs through third parties in Singapore.
This will have MASSIVE implications.
(a thread) pic.twitter.com/Jyxrd8zEIc
— The Kobeissi Letter (@KobeissiLetter) January 31, 2025
販売店の苦悩と批判
販売店側も転売ヤーに渡らないよう対策を講じていたものの、混乱を防ぐことはできなかった。店側の管理体制を巡ってSNS上では批判の声が噴出。「先着順にすれば転売ヤーが湧くのも想定できたはず」といった意見が相次いでいる。
今回の事態を受け、転売ヤー対策の強化が求められている。一つの案として日本国内向けのGPU製品の販売には、マイナンバーの確認を義務付け、購入者情報の管理を徹底することで外国人が変えないようにしろ、という意見もある。
偽物のマイナンバーカードを出されるリスクに対しては、ICチップ読み込み確認をすれば簡単に外国人の手に渡ることはないだろう。
ただ問題がある。現行法では社会保険や税金関係以外でマイナンバーを提出させることは、マイナンバー法違反になってしまうことだ。
仮に新たな法律で義務化するにしても、個人情報保護や実現可能性の面で問題がある。店側がマイナンバー情報を取得せず、かつそのカードが本物であると証明できる手段が求められるだろう(いずれにせよ、今すぐ対応は現実的ではない)。
「いや、何からの認証情報を必要すれば、今度は金で雇われた日本人が買って結局、中国の手に渡る」という意見があるかもしれないが、少なくともしっかり対策をすることで中国人転売ヤーの抑止力になるだろう。
◇
今回の混乱が示したのは、転売目的の買い占めと販売管理の甘さがもたらす深刻な問題である。今後、同様の事態が起きないような仕組み作りが急務と言えるだろう。
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