コロナ後に東京一極集中が再加速している理由

黒坂岳央です。

コロナ禍で減少していた東京一極集中が再び加速している。総務省が1月に発表した2024年の人口移動報告によると、東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)の転入超過が13万人を超えた。各地自体で取り組む「地方創生」はこれまでのところ、まったく機能していないことになる。

特に地方離れが著しいのは「若い世代」だ。

LanceB/iStock

地方流出理由は「仕事」

東京一極集中を止めることができない理由はそれはもうたった一つで、「仕事」である。

コロナ直後はリモートワークなどが広がることで一時的に東京への過密は軽減していたが、リモートワーク廃止の流れも手伝い、今再び加速している。

東京には仕事の質も量もケタ違いである。イーアイデム社の調査によると、2024年4月時点の全国平均時給は1,257円、東京都のアルバイト・パートの平均時給は1,468円と全国を上回る。

また、仕事内容も非常に多岐にわたり、労働集約型産業が多い地方と比べて、東京はデスクワークも選択肢に多いことが魅力の一つとなっている。

地方で稼げる仕事となると、医師を除けば、メーカーの工場勤務。筆者はアルバイト情報誌を眺めるのが好きでよく読んでいるのだが、工場勤務はしょっちゅう大規模募集がなされていて、時給もかなり高い。技術的なものなら時給は2000円に迫るものもあり、東京の仕事に時給負けしないものもあったりする。

特にTSMCバブルで盛り上がる熊本県菊陽町では、半導体関連の仕事以外の時給も総じて高い。最高時給はなんと、5000円のものも存在する。

米国のシリコンバレーはエンジニア以外のベビーシッターやヨガ教室などの仕事も給与が高いことで知られるが、地方でも場所を選べば高単価の仕事はたくさんあるのだ。

問題は地方の仕事は、東京で提供されているデスクワーク職ほどの訴求力がないことだ。

「工場勤務」というと、まだまだ偏見が少なくない。いわゆる「3Kの単純作業」というイメージであり、地方でも一目置かれる花形の仕事は「県庁勤務」、こちらは工場ほど大規模な人員を必要としない。結果、地方で働く人を引き留められていないのだ。

東京は本当にコスパがいいのか?

一人暮らしをするなら、東京は最高の街である。実際に住んでいた頃、自分は東京から出ることなどチラりとも想像したことはなかった。

しかし、「子持ちで」となると話は全く変わってくる。東京で2人、3人と子供を持って複数の子供部屋が必要となると、東京で働く合理性がわからなくなってくる。

広告、IT、金融、商社のような高付加価値の仕事でハイスキルワーカーや、独立して安定的に年収3000万円以上くらい稼げる人なら話は別だが(いや、最近はそれでもキツイ)、最近のインフレや住居の高騰を前にすると23区内に家を持って育児中、となれば1000万円前後ではかなり厳しい。

筆者がサラリーマンをしていた頃は、今ほどインフレ、マンション価格高騰が起きていなかったが、子持ちの社員はほぼ例外なく、通勤時間が1時間半、2時間かけて埼玉や千葉から赤坂や六本木に通勤していた。

そうなると東京を離れるより、子供の数を絞る選択肢を取る人が出てくる。東京を離れることは多くの会社員にとって、キャリアを妥協することになるからだ。

つまり、東京は一人暮らしには最高でも複数の子持ちにとってはあまりコスパが良いとは言えない。

筆者はたまたま独立に際して東京から熊本へ移住したが、結果として良かった。仕事がどうにかなる立場で複数の子供を育てていくなら、東京より地方の方が遥かに割安で、はるかに快適な生活ができるからだ。

東京一極集中は地方の仕事を充実させない限り、止めることは不可能に思える。地方自治体は「地方生活体験イベント」「移住者優遇措置」などで必死に盛り上げようとしているが、人は住む場所を合理的に決断するので目先のエサだけで定住を促すことは難しいだろう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。