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政府は、マイナ保険証の優れた点として「なりすまし防止」を強調しています。しかしながら、以前にも指摘しましたが、マイナ保険証では「なりすまし」は防止できません。従来の保険証では「なりすまし」を防止できないことは事実ですが、マイナ保険証でも「なりすまし」を防止できないことも事実なのです。この事実は簡単に立証できます。
マイナ保険証の制度を改善するためには、どのような不備があるかを一つ一つ丁寧に分析する姿勢が大切です。分析もせずに、ただの思い込みで思考停止していては、いつまで経っても制度は改善されません。マイナ保険証の制度を改善するためには、その不備を謙虚に認めることが第1歩です。今の政府には、その姿勢が欠落しています。
何故、「なりすまし」が防止できないのか、順を追って説明してみます。
マイナ保険証を用いて病院で受付する時の手順については、厚労省のWebサイトで丁寧に解説されていますので、そこより引用してみます。
なぜ、カードリーダーの種類により、カードの設置向きが異なるのか理解に苦しみます。厚労省が仕様書で、設置向きを規定しておくべきです。
ここで重要な点は、①顔認証と②暗証番号を選択できるという点です。不正利用しようとする人は、事前に暗証番号を教えてもらっていますので、②暗証番号を選択すれば簡単に本人確認が完了してしまいます。
つまり、いとも簡単に「なりすまし」が可能となってしまうのです。
ここで重要な点は、カードリーダーの操作で受付は終了している点です。つまり、患者がマイナカードを受付の事務員に渡すことはありません。そのため、事務員がマイナカードの写真で本人確認をすることはできません。つまり、この手順ではカード上の写真を用いた不正防止はできないのです。
マイナカードが受付の事務員に渡されないような手順にした理由は、カードに記載されているマイナンバーを事務員の目に触れさせないようにするためと推測されます。マイナンバー自体は、保険請求には必要ありません。また、マイナンバーは秘匿するべきデータと政府は説明してきました。そのため、上記のような手順となったのです。
まとめますと、マイナ保険証で不正利用するグループ内で暗証番号を共有されていれば、いとも簡単に「なりすまし」が可能となります。しかも、マイナカードが受付の事務員に渡ることもないため、写真の肉眼的な本人確認もありません。性別が同じで、年齢も極端に離れていなければ、まず露見することはないと考えられます。
どうすれば「なりすまし」を防止できるのか?
カードリーダーでの受付完了後に、「患者がマイナカードを事務員に渡して、事務員がマイナカードの写真を見て肉眼的に本人確認する」 という手順を義務化することが現実的な改善策です。
この手順を追加すれば、カードリーダーで暗証番号が選択された場合でも、事務員により肉眼的な顔認証がなされることになります。カードリーダーで顔認証が選択された場合には、顔認証が重複しますが仕方ありません。
なお、厚労省は暗証番号を選択した場合には「なりすまし」が可能であることを認識しているようであり、 Webサイト には、事務員がマイナカードを預かるべきケースとして次のように記載されています: 「暗証番号認証を行う際、明らかに本人であることに疑いがあり、マイナンバーカードの表面の写真を確認する場合等が想定されます」。 しかしながら、現実問題として疑いの有無を事務員が判断することは極めて困難です。 一つ間違えれば差別問題となります。 したがって、受付した全員のカードの写真をチェックすることを義務化にした方が公平であり確実なのです。
将来は、患者がカードリーダーで認証した後に、事務員がレセコン上で①顔認証と②暗証番号のうちどちらが選択されたかを確認できるようにシステムを改良することが望ましいです。患者が②暗証番号を選択した場合のみに、「事務員による肉眼的な顔認証」を必須とすればよいわけです。
マイナ保険証には、ICチップや顔写真がついており、一見して完成度が高そうな制度設計に見えます。しかしながら、運用方法に致命的な欠陥があるために「なりすまし」が防止できないのです。正に「仏造って魂入れず」を地で行く話です。