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高すぎる返本率:書籍33%、雑誌44%
出版大手の講談社、新聞大手の読売新聞が「書店活性化に向けた共同提案=官民で書店振興」を発表し、読売新聞は一面トップ、詳報2㌻(2月7日)という力の入れようです。書店数は03年度2万800店だったのに、20年間で1万900店に、つまりざっと半分になってしまいました。
新聞1面下は伝統的に出版広告が並んでいます。広告量は減り、恐らく広告単価はどんどん落ち、新聞界にとっては一大事です。本の販売額は紙と電子を合わせ2024年、1兆5700億円(紙は1兆円)で、ピークの1996年の2兆6500億円の4割まで落ちています。雑誌は1兆5600億円が4100億円で、ピークの4分の1です。食品や健康グッズなどの通販広告が大量になり、恐らく低価格で掲載されています。
本の値上がりも加速しています。多くの新書は1000円を超え、千円札1枚では買えません。紙、印刷費、インク代、人件費、物流費が高騰しているからです。そればかりでなく、高い返品率、硬直的な再販制度や印税など、業界全体の改革が進んでいないのです。
出版市場では、電子媒体化が進む一方、流通面でも、ネット書店大手の米「アマゾン」などが進出し、出版物の販売額は書店経由58%(ネット書店21%)となり、本屋さんがない市町村が増えているのです。出版の電子化、書店のネット化は時代の流れで逆らえないにしても、書店で本、雑誌を手に取り買いたい出版物を見つける。それにはやはり、町に本屋さんがあってほしい。
政府も経産省が音頭を取り、政界でも議員連盟ができ、後押ししています。本屋さんが一軒もない市町村は全体で28%、町は41%、村は86%が「無書店自治体」です。本を「1か月で1冊も読まなかった」人は6割だそうです。出版物は文化レベルの維持に不可欠です。書き込みを入れたり、熟読して思索をめぐらすには、ネットでなく、やはり紙の本が向いているように思います。
今回の書店振興策の柱は①キャッシュレスレス決済の手数料の軽減②書店のDX(販売状況のデジタル化)の推進③書店と図書館の連携④新規の出店への交付金付与などです。効き目がありそうな振興策、あまりなさそうな振興策がまじっています。さらにもっと掘り下げてほしい論点も欠けています。
私が重視するのは、出版物は異常に返品率が高く、出版社の経営を圧迫している問題です。書店に出荷した出版物のうち、書籍は33%、雑誌は44%も返品されています。「配本→返品→再配本」を何度か繰り返しても、最後は断裁(廃棄)処分ですから、出版社の損失になります。製造業の中で際立って高い返品率です。他の業界なら経営が成り立たないはずです。
返品率が高いのは、まず販売データの管理が甘いことです。AI(人口知能)を使って、本も読ませ、適正な発行部数を予測することです。配本は適正か、返本はどうなっているかもAIで分析する。ある期限(1年)がすぎたら、値引きできるようにする。再販制度のもとで、店頭における値引きは禁止され、売れなかった出版物は出版社が定価で引き取ってくれるので、安易な仕入れになりがちです。
売れ筋の本は中小規模の書店ではすぐに売り切れてしまい、補充に日数がかかり、そのうちに賞味期限(読みたい気持ち)が切れてします。それを防ぐには、売り切れ状態(欠本)をリアルタイムでつかみ、増刷し速やかに補充するようにする。コンビニはスーパーでやっていることです。
今の再販制度を修正し、ある程度の期間(1年とか)を過ぎたら、書店の判断で値引きできるようにする。教科書的な専門書は売れるサイクルがありますから、値引きはしない。せっかく、書店員が選ぶベストセラーを表彰する「本屋さん大賞」が大きなニュースとして扱われるようになったのですから、取次会社(配本会社)の仕切りではなく、売る側の本屋さんもAIを使った予測を重視し、配本を要求する。売れ残りは値引きし、売り切るようにする。こうした工夫が必要です。
さらに原則10%になっている印税(筆者の原稿料)は発行部数ではなく、実売部数で支払うようにする。現在は売れても売れなくても、発行部数に応じて印税額が決まる。売れ残って最後に断裁する分まで印税を払っている。そうした慣行を改めることです。それも出版社の収益の改善の役立つはずです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2025年2月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。