この夏、沖縄に新たなテーマパーク「JUNGLIA OKINAWA(ジャングリア沖縄)」(以下、ジャングリア)がオープンする。
建設地は沖縄本島北部の今帰仁村。手掛けるのは、マーケッターとして名高い森岡毅氏だ。緻密な計算にもとづくマーケティングで、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)や西武園ゆうえんちなどを再建した人物である。氏が手掛けるジャングリアとは、どのようなテーマパークなのか。
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株式会社ジャパンエンターテイメントプレスリリースより
秀逸なイメージ映像
そのイメージ映像は見事な仕上がりである。
沖縄にジュラシックパークが作られたのか? と思わせるほどの迫力だ。用意されたアトラクションを詳しく見てみよう。
「ジャングリア」だけにあるもの
注目されているのは「ダイナソー サファリ」だ。12人乗りの大型オフロード車でジャングルに入り、迫ってくる肉食恐竜T-REXから逃げる、というもの。恐竜はVRではなく、アニマトロニクス技術を用いて作られている。かつて森岡氏が属していたUSJの「ジョーズ」に近いアトラクションになるのではないだろうか。
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左:株式会社ジャパンエンターテイメントプレスリリースより 右:USJ公式サイトより
だが、派手なのはこれぐらい。恐竜関連のアトラクションを除けば以下のような、やや地味なものが多い。
・スカイエンド トレッキング
高さ34m全長84mの吊り橋を、いびつな形の踏み板とロープを頼りに渡る、というもの。下方にはジャングルの谷底が待ち構え、足下は想像より揺れるという。
・ホライゾン バルーン
直径23mの巨大気球で標高200mまで上がり、(プレスリリースによると「ワインのグラスを優雅に傾けながら」)景観を楽しむ、というもの。やんばるの木々とエメラルドグリーンの海が絶景だという。
・バンジー グライダー
20mの高さにある床が突然外れ急落下する、というもの。いわゆるバンジージャンプだ。落下だけではなく前に放り出されたり上下に跳ねたりし、「アドレナリンが制御不能になる」という。
・スカイ フェニックス
19mの高さから、ワイヤーロープに吊り下がり沖縄の空を280m滑走する、というもの。いわゆる(アスレチック施設や遊園地でおなじみの)「ジップライン」だ。やんばるの大自然に向かってダイブするのは、まさしく“空を飛ぶ体験”だという。
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左:志摩グリーンアドベンチャー「ジップダイブ」(志摩グリーンアドベンチャー公式サイトより)
右:ジャングリア「スカイフェニックス」(イメージ画像 プレスリリースより)
吊り橋、気球、バンジージャンプ、そしてジップライン。いずれも、他所で体験できるアトラクションだ。例えば、三重県の志摩グリーンアドベンチャーの「ジップダイブ」は、ジャングリアと同様に、うつ伏せ姿勢で滑空するタイプのジップラインだ。高低差50m、滑空距離620mと、どちらもジャングリアの倍以上である。
つまり、ジャングリアのアトラクション自体は、決して特別なものではない(よって投資額は700億円と、比較的低めに抑えられている)。
特別なのは景観だ。世界遺産「やんばる」の大自然を眺めながら、アトラクションを楽しめることが特別なのだ。だからこそ、景観に注力したイメージ映像を作り、プレスリリースで、
- ジャングリア沖縄は「やんばるのジャングル」の中に姿を現します
- やんばるを擁する沖縄北部の圧倒的な大自然を舞台
- やんばるの大絶景の中で、その地にしかない体験を通して生まれる”興奮”
と訴求する。結果、「地味なアトラクション」が「人生でいちばん心たかぶる体験」になるのだ。
認知形成とはなにか
森岡氏の著書では「認知形成」という言葉が頻出する。商品購入後の満足度を高めるため、購入前に商品の魅力をアピールし「刷り込むこと」を意味する。
イメージ映像もさることながら、プレスリリースの言葉の巧みさだけでも、ジャングリアの魅力が刷り込まれそうだ。だが、その言葉の使い方に疑問符が付けられている。
ジャングリアの所在地は「やんばる」か
やんばるは、漢字で書くと「山原」。山々が連なり森の広がる地域を意味する。一般的には、名護市以北、国頭村・大宜味村・東村の3村を指す。ジャングリアがある今帰仁村は、「やんばる」に近い場所ではあるが、厳密には「やんばる」と言い切れない。23年11月のジャングリア発表会見では、記者が「やんばる」を用いた表現について問いただす場面があったという
では「ジャングル」はどうか。ジャングリアの建設地は、以前ゴルフ場(オリオン嵐山ゴルフ倶楽部)だった。その跡地に3万本植林してジャングルを演出している。つまり、ジャングリアは「やんばるのジャングルの中に姿を現す」のではなく、「やんばるの近くのゴルフ場跡地に作られた人造ジャングルの中に姿を現す」のである。
ジャングリアは本物になれるか
とはいえ、景観は本物のやんばるだ。本物に人造ジャングルがどれだけ溶け込めるか。アニマトロニクスの恐竜がどれほどリアルか。これが、ジャングリアの成功の鍵となるだろう。7月25日の開園が待たれる。