大手企業による2026年卒業予定者に対する初任給引き上げが続いています。相場は30万円台が中心で、中には40万円以上もありますね。
幅広い業種で行われているため、もはや社会現象と言ってもいいでしょう。
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【参考リンク】ソニーグループ 大卒初任給を31万円余に引き上げ
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【参考リンク】三井住友銀、初任給30万円 来春から 他業種と人材争奪
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【参考リンク】オープンハウス、初任給36万円に引き上げ=若手獲得へ競争力強化
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【参考リンク】この10年で「初任給をグンと引き上げた」TOP50社
バブル前から30年以上上がらなかった初任給が大きく跳ねた意味とは。そして、安い初任給で過酷なサバイバルレースを強いられた就職氷河期世代は、このまま「あーあの可哀そうな人達ね(苦笑)」って流されて終わりなんでしょうか。
いい機会なのでまとめておきましょう。
日本企業が初任給を引き上げざるを得ないわけ
大手各社が初任給を挙げざるを得ない理由は、以下の3点です。
1. 学生はもはや誰も年功序列・終身雇用を信じてはいないから
これは過去にも言いましたが、もう十年以上前から若者の年功序列・終身雇用制度への不信は始まっています。
具体的に言うと、ずっとコツコツ働いていれば将来は出世も昇給も出来るというのが年功序列制度、そして定年まで確実に雇用が保証されるというのが終身雇用制度です。
それが実際はそうじゃないだろうとバレちゃってるんですね。
なんでバレちゃったかというと、そりゃあれだけリストラだの早期退職募集だのやって、社内もいい年してヒラの中高年で溢れてたらバカでもわかるでしょ(苦笑)
十年前はまだ一部の勘のいい人たちだけでしたが、今はもう普通の大学生もみんな理解しちゃってますね。
年功序列や終身雇用を信じられないなら、誰も激安の初任給からスタートなんてしたくないでしょう。だったら、企業側は初任給を底上げするしかありません。
と言うと決まって「でもうちは今も変わらず90年代と同じ初任給のままだけど、ちゃんと新人は採れてるよ」みたいなことを言う人もいます。
そういう会社の人に聞きたいんですけど、たぶん最近入社してきた新人は「出世とか興味ないです」「残業も転勤もしたくありません」「ワークライフバランス重視してます」みたいな人ばっかりじゃないですか?
そう、彼らはやはり年功序列も終身雇用も信じてはいないんですよ。信じてないから(それと引き換えの)滅私奉公を最初から避けてるわけです。だって割りに合わないから。
貰った時給分だけの仕事はするけど、それ以上はやりません的な、学生時代にバイトする感覚と同じなんです。
それじゃ仕事が回らないって?だったら初任給も年功序列もスクラップするしかないでしょう。そしてそれは会社側のミッションです。
「最近の新人は~」とか愚痴ってる暇があったら、社内で消化試合モードやってる中高年が目の色を変えて働き始めるような人事制度に切り替えましょう。
2. 新人の数が少ないから
一学年の人数が200万人を超えていた団塊ジュニア世代と違い、2010年以降に世に出た世代は一学年120万人切ってますからね。
年功序列制度というのは、言い換えるなら年齢で人を判別するということです。他の世代と比べて慢性的に数の少ない彼ら若手には、常に強い賃上げ圧力が加わることになります。
逆に言うと氷河期世代には(以下自粛)
3. 企業自身も、もはや年功序列・終身雇用を信じてはいないから
実は筆者はこれが決定的だと感じています。
別に新人がどう思っていようが数が少なかろうが、企業サイドが昔のように「年功序列でびしっと育て上げられた人間以外は人間にあらず!」っていうスタンスだったら問題ないんですよ。
氷河期の時みたく「新卒でマトモな企業から内定採れなかった奴はダメ、3年未満で離職した奴はダメ、非正規雇用しか経験してない奴もダメ、ダメな奴は何をやってもダメ」っていうスタンスで足並み揃えとけば、ガキが何言おうが新卒一括採用という仕組みそのものは微動だにしないはずなんですね。
でも、今は企業自身が年功序列や終身雇用に強い疑問を抱いています。いや、疑問っていうほど生易しいものではなく、憎悪に近い感情を抱いている偉い人はいっぱいいると思います。
だって、それらを通じて現に生み出されたのが、年収数年分の割増退職金を積んででも頼むから辞めてもらいたいレベルの人材なわけで。
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若手も企業も制度を信頼できていない状況で、どこか一社が抜け駆け的に制度見直しに動けばどうなるか。
そして、若手が一度抜けてしまうと、その抜けた穴を補充できるほどの人材が、少子化のせいでそもそも市場に存在しないとしたら。
その結果が、今起きている初任給引き上げのドミノ倒しなんじゃないでしょうか。
■
以降、
・初任給だけ上げて他は無視、というわけにはいかないわけ
・氷河期世代は敗れたのか
Q:「中学受験より英語の早期教育の方が効果的では?」
→A:「筆者も同感ですが、留意すべき点もあります」
Q:「フジテレビ問題をどう見ます?」
→A:「筆者の知る限り……」
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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’sLabo」2025年2月13日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。